『多機能型精神科診療所による地域づくり−チームアプローチによる包括的ケアシステム』

窪田 彰編著
A5判/288p/定価(2,700円+税)/2016年4月刊

評者 上ノ山一寛(医療法人遙山会 南彦根クリニック)

 本書は精神科地域ケアを志す人に勇気を与え,進むべき方向性を示す快著である。
 編著者は1986年に墨田区錦糸町に精神科診療所を開設した。その後,精神科デイケアを開設し,往診や精神科訪問看護を行い,在宅療養支援診療所の認可も受けるなど,外来機能を充実させていった。同時にクラブハウスや共同作業所づくりにも取り組んだ。
 このように医療と福祉の垣根を越えて,必要とされる機能を着々と付け加えていく中で,利用者が自分らしい生活を選んで暮らしていけるような地域づくりを展開していった。こうした包括的精神科地域ケアのスタイルは「錦糸町モデル」と呼ばれ,2008年日本精神神経学会総会で表彰されている。
 今日の診療報酬体系は,医師一人の働きに大きく依存したモデルによって組み立てられており,チーム医療や,地域連携への評価はまだまだ乏しい。それでも編著者らの診療所のように,デイケアやアウトリーチ等を行い,自立支援事業所とも協力しあいながら地域ケアを担おうとする多機能型精神科診療所が各地で成長してきている。2015 年5 月には,編著者らの呼びかけで日本多機能型精神科診療所研究会が発足している。本書はこのような動きに賛同した人たちによるアンサンブルとなっている。
 入院中心から地域生活中心へというスローガンが掲げられて久しい。その後の議論では,病床削減や退院促進が中心となり,地域生活を支える外来医療への言及は少なかった。精神障害は疾患と障害の両側面があり,その地域ケアは医療と福祉が協力連携して行われる必要があるが,必ずしも容易ではなかった。障害者総合支援法(自立支援法)ができ,精神障害者に対する福祉サービスはそれなりに整えられつつあるが,残念ながら医療と福祉をつなぐ回路は未だ確保されていない。
 総合支援法では,地域活動支援センターは福祉拠点として位置づけられている。それに加えて医療拠点の必要性を編著者らは強調している。今日の財政状況の中で,新しく医療拠点を作っていく余裕はない。それならば,今日各地に育ってきた多機能型精神科診療所を中心とした医療チームを,民間の地域精神保健センターとして位置づけ,区市町村からの委託業務を担えるようにしたらどうかというのが本書の画期的な提案である。
 わが国の精神科医療はフリーアクセスが保障されており,利用者は自由に医療機関を選択することができる。一方医療機関も来るものは拒まずの姿勢で,ある程度の責任を果たせてきた。しかしそれだけでは,自ら援助を求める力の乏しい人たちに対して支援が及ばない。長期入院者や複雑多問題を抱えて引きこもっている人たちなど,自分たちの地域の課題は自分たちの手で解決していこうとする地域責任制の考え方が鍵となるだろう。
 全国に展開した精神科診療所を有力な社会資源と位置付けた,精神保健福祉施策を求められている。その際,地域に責任をもつということのあり方を本書は問いかけている。