『十代の自殺の危険―臨床のためのスクリーニング,評価,予防のガイド』

シェリル・A・キングほか編/高橋祥友監訳
四六判/250p/定価(2,800円+税)/2016年1月刊

評者 末木 新(和光大学現代人間学部)

 自殺は年間10万人あたり20人程度の低い確率でしか起こらない事象であるが,日常的に臨床活動を行う者にとって,この問題は決して珍しい類のものではない。既遂自殺が起こるかどうかはさておき,自殺の危険性を感じさせるクライエントに出会うことは,臨床家にとっての日常である。しかしながら,自殺の危険性を適切に判断し,危険が高いと判断された場合に適切に対処できると胸をはって言える者は少ないであろう。本書の著者であるキング氏らは,こうしたスキルの向上には継続的な生涯学習が不可欠だと強調するが,本書はそのような学習の際に有用なものとなると評者は確信している。
 本書は,臨床にたずさわる専門家を対象として,ティーンエイジャーの自殺の危険性の評価と介入について述べたものである。しかし,その射程は若者のみならず自殺予防全般をカバーしている。目次を見れば明らかであるが,第7 章でアメリカの研究者らしく自殺予防に関する法的問題(訴訟のリスク回避)について述べていることを除けば,いかにも自殺予防に関する書籍の王道をいく構成となっている。具体的には,第2章で危険因子と保護因子について述べ,第3・4章で自殺の危険性の評価方法,第5章で介入計画について述べている。
 本書の長所は,著者の自殺予防に対する真摯で情熱的な態度が滲み出ている点である。例えば,「どの青少年が自殺未遂や既遂自殺に及ぶか,そしていつそのような行為に及ぶかということを正確に予想するのはかならずしも常に可能である訳ではない」(p.130),「自殺の危険が高い可能性のある青少年に対する介入計画の手引きとできるような確固とした科学的なエビデンスはないのだが」(p.146)といった記述に見られるように,著者らは自殺研究の限界を強く意識している。そのうえで,限られたエビデンスをかき集め,最善の評価・介入のあり方を伝えようとしている点は敬意に値するものである。
 一方で,せっかくの機会なので問題点と今後の期待も述べておきたい。これは本書だけの問題ではないが,著者らも述べているように自殺研究には大きな限界がある。特に,危険性の評価については大きな問題がある。自殺の危険性を評価するために,昨今では自殺の危険因子(例:過去の自殺企図歴)の有無を確認するためのチェックリストを使うことが多い。本書でも具体的なリストが提示され,付録としてすぐにでも使えるようになっている。しかし,自殺の危険因子は多種多様であり,危険因子間の相互作用もあるため,これらの膨大な情報をどのように統合すべきかという点については,個人の臨床家にゆだねられたアートの領域になっている。だからこそ臨床家の継続的自己研鑽/生涯学習が必要なのであるが,この複雑な評価の問題をどのように解決できるのかは,本書の著者(や評者)を含めた自殺に関する研究者の負った重要な課題であろう。