『アディクションと加害者臨床―封印された感情と閉ざされた関係』

藤岡淳子編著
A5判/240p/定価(3,200円+税)/2016年1月刊

評者 林 直樹(帝京大学附属病院メンタルヘルス科)

 本書は,暴力・レイプなどを繰り返す加害者の精神病理の中にアディクションの要素を見出し,そこから治療の手がかりを得るというコンセプトで編集・制作されたものである。それは,自己意識や身体感覚をコントロールする手段としてドラッグやアルコールを使用するうちにアディクションが発展するという理解を,加害を繰り返す行動にも適用しようということである。そこでは,周囲の人を傷つける行動や,アディクションやセックス依存などの自己破壊的な結末に至る行動や加害を繰り返す症例が提示され,さらに,その回復を援助するためのさまざまな活動が記述されている。著者らはそれぞれ,それらの人々の援助者であり,そのことが記述に迫真性をもたらしている。
 ここで取り上げられている精神病理の多くは,評者にとって精神療法的アプローチが難しいと感じられていたものであった。彼らの行動には,援助者の内部に恐れや批判,動揺が広がりやすく,共感することを妨げる性質がある。ここで展開されている彼らのアディクションとしての苦しみの記述は,彼らを理解するための手がかりとして大いに役立つもののように感じられた。
 本書には,そのような難しい領域の地図と共に,そこに踏み入るための手立てのいくつかが示されている。周囲の人々を傷つける加害者の回復援助では,アディクションで大きな力を発揮する自助グループと,伝統的に司法精神療法の領域で用いられてきた治療共同体が重視されている。彼らは,一般の人々の目から見ても,特別に理解の難しい人々である。そのような彼らには,まず,理解されていると感じることが大きな力となる。当事者同士の関わりにおいて彼らは,理解された,理解できたとスムーズに感じることが可能となるだろう。同じような問題を抱える仲間の存在が助けになるし,その仲間との関わりが濃密な学習の機会となる。自助グループや治療共同体のような,自発的に関わろうとする意志が重んじられ,それを基礎として相互の交流・理解を進めることができる場が特別の力を発揮するゆえんであろう。
 本書で取り上げられているさまざまな問題を結びつけている一筋の糸は,虐待・いじめ・トラウマである。それは,内戦で疲弊している南スーダンでも,わが国の児童自立支援施設でも同じであり,養育の基本的条件が満たされないということである。私たちには,そこからの回復がいかに可能となるのか,どこまで回復できるのかという問題が突き付けられている。南スーダンは遠くの地と見る向きもあろうが,格差・貧困,排除は私たちの身近に広がっている。そこからは,今でも問題が発生し続けていることを忘れるべきでない。
 締めくくりには,アディクション当事者と編者との対談と,それぞれの当事者の回復過程を一覧する表が示されている。それらは,この複雑な問題に対する一定の援助とそこからの回復の流れを,鮮やかに記述するものとなっている。このような良書をものにした著者たちの労を多としたい。