『旧版 あとがき』

 この本は,雑誌「精神療法」に,「方法としての行動療法」として二年にわたって掲載してきた論文をまとめて,本としての体裁を整えたものである。
 本書では,わたくしの,いま,ここにあるところを,わたくしのこれまでの経験と行動療法の体系にのせたところで表現しようと努めた。
 精神療法は,どのような治療法でも長くそれを続けていると,自分にとって自然なものになり,自分のものとして自在に働くものになるのだと思う。とくに行動療法にはそれがいえるのではないかと思う。行動療法は,本書で説明をしているように,もともとが,大きな思索がもとになっているというものではなく,小さな方法に優れた治療法である。したがって,この治療法は,実際の方法として,治療者自身の身の内に入りやすいものであるし,自然の一部になりやすいところをもっている治療法であるように思う。しかし,そこのところが,かえってこの治療法を,不自然に,また,わざわざ難しくみせているところがあるのかもしれない。この治療法の指導を,とくにわたくしの身近でない治療者にするとき,ときどき,多分,その人にとっても,不自然に感じとられているのではないのだろうかと思われるような,ぎこちない硬い,偏った問題の見方や,不自然なぎくしゃくした治療のすすめかたをみることがあってびっくりすることがある。治療法は役立つように用いるものであって,それに不自由に屈伏させられるものでは決してないのである。
 方法は自分の,身の内,にしてしまうことである。そうすると,そこから発想が自由を得て自在になり,力強くなってくるものである。そして臨床の要請に,素直に,自由に応じることを妨げられにくくなるのである。この本の記述がそこのところにも役立つものであったらとても嬉しい。
……(後略)

2007年6月  山上敏子