『実践 イメージ療法入門−箱庭・描画・イメージ技法の実際』

福留留美著
A5判/250p/定価(3,600円+税)/2016年3月刊

評者 原田誠一(原田メンタルクリニック・東京認知行動療法研究所)

 人間の生活全般の中で,そして精神療法においてイメージが果たす役割がすこぶる大きく,独自のものである事情は言を俟たない。本書は,そのイメージを活用して精神療法を進める“イメージ療法”に関する独創的な快著である。巧妙に練られた構成が素晴らしく,温かく明晰な語り口が絶妙。読み進めるうちに,精神療法に関する読者のイメージがほぐれて広がり活性化されて行く。
 本書の構成の妙は,「はじめに」の5頁において既に明らかだ。20年ほど前に「イメージ療法って胡散臭いよね」という発言を耳にした経験があり,「この誤解を解いて,もっとイメージ療法のことを知ってもらいたいと考えるようになった」ことが「この本を上梓した一番の動機」。
 次いで,「人生の節目節目で切羽詰まった状況で自分のためにイメージを使うようになり……イメージに教えられ,救われたという経験を幾度かした」経緯を記したいと思ったのが「二つ目の動機」。著者は,イメージを利用して難所を乗り切った自らの三つの体験を詳しく述べているが,これが実に卓越した内容になっている。この箇所を読むだけで,イメージ療法の本質と概要,ユニークな実践力と多様性,更には実施に伴う困難までも鮮明に伝わってくる点が素晴らしい。加えて,ご自身の体験を飾らず率直に綴る姿勢から,読者の中で著者のイメージが信頼と親しみを帯びた形で定着し,本書を読む導きの糸になってくれる効用もある。
 続く【案内編】では,「海のシーン」を思い描くイメージ技法が紹介され,イメージに備わる三つの重要な性質が教示される。ここまでが,イメージ療法への見事なオリエンテーション。
 次の【理論編】では,イメージ療法を理解〜実践する上で核となる観点,「『危機感覚』の覚知と『安全感覚』の育成」「イメージの『自律性』と『制御可能性』」に関する説明がなされる。この後,「セラピスト−クライエント関係」「イメージ療法の適応と注意点」「壺イメージ法」と論が展開する。
 ここの「イメージ療法が目指すもの」の中に,次の記載がある。
 「……このようなイメージに表れた現実世界の不適応と関連する場面で,クライエントが,その状況に恐怖で圧倒されたり,即座に巻き込まれてしまったり,無防備に突進したり,逆に慎重になりすぎて一歩も踏み出すことができないなど,特徴的な展開が起こります。……それをイメージ体験の中で繰り返すことで,安全感が育まれ,イメージ中での感じ方や体験の仕方に変化が起こり始めます」。(本書24頁)
 この箇所は,イメージ療法〜精神療法全般の本質の一面を端的に表現しており,評者は認知行動療法を想起しながら首肯した次第。
 続く【実践編】においては,「閉眼/開眼イメージ法」の実際が豊富な症例と共に示される。その中で「研修会や授業等で使える」方法,「“気になる壺”/“安心の壺”開眼イメージ法」の紹介もあり参考になる。
 掉尾の【展開篇】では,@著者が開発し大学の授業で活用している「イメージ描画による感情調整
法」が示され,A“Aさんの5年間にわたるイメージの展開と15年後の変容”に続く。大学生による12葉のイメージ描画は,若い皆さんとイメージ療法の幸せな出会いを雄弁に物語る内容になっていますので,是非ご覧になってみて下さい。
 最後に,本書を紐解きながら評者が抱いた感想を二つ記させていただく。一つ目は,イメージ療法とセラピストの個性〜特徴の関連。他の精神療法の場合と同様,イメージ療法においてもその展開にセラピストの個性〜特徴が深く関わる。そのことは当然著者も十分自覚しており,例えば「筆者の場合,どちらかというと心配性で保護的になってしまいがちなので,……」(53頁)という記載がある。
 本書各所に散りばめられた症例を読むと,著者のこうした自覚が概ね見事な結果に結実しているが,時に少々問題が生じているようにも見受けられる。例えば,「母親との葛藤:現実対応に向けて怒りを調整するイメージ」(105〜109頁)における,「母親への腹立たしい気持ちが込み上げてきている」クライエントへの関与。評者は,@#5での対応の様子に聊かの過敏さを感じ,Aその状態のまま6週間経た上での#6の経緯に,若干の違和感を覚えました。
 もう一つは,イメージをめぐる考察について。本書では,イメージに関する様々な議論が展開されており,一例をあげれば「からだの動きとイメージの関連」(166頁)。こうした議論を更に進めるためには,精神療法以外の分野との対話を一層密にすると良いのではないかと評者は感じた。
 イメージへの着目〜考察には精神療法を超えた広がりと深さがあり,我が国独自の発信も多い。ここ数年の論考に限っても,渡辺保「イメージの身体」(『身体は幻』),高階秀爾「言葉とイメージ―日本人の美意識」(『日本人にとって美しさとは何か』),そして長谷川宏による古墳〜漢字〜浄土思想とイメージの関係の考察(『日本精神史』)。こうした優れた業績との交流を通して,福留先生のお仕事が更に発展して行くことを期待しております。