九州大学で定年退職を迎えるにあたり,二冊の本を出版させていただくことにした。いずれも心理臨床の将来に私なりに種をまくつもりでいる。一冊は私の単著で,いま一冊は私の影響を受けた人たちがどのような心理臨床の展開をしているかを執筆していただき,私の編著で出すというものである。前者は,別の出版社からつい先頃すでに出版されており,本書は後者の本である。
 私は,いろいろな領域で心理臨床の実践と研究を行ってきた。ことさら奇をてらってきたつもりはないが,結果として割と特徴的なことをしてきたと言えるように思う。さらに特徴的なのは,直接の教え子だけでなく,専門家の方々の中に,少数ながらも私の仕事から影響を受けた人たちがいるということであろうと思う。
 かつて,私の臨床を便宜的に「内面探究型アプローチ」「ネットワーク活用型アプローチ」「システム形成型アプローチ」の三つに分けたことがあるが,その区分にしたがって,それぞれ私の影響を受けた方々に執筆いただき,私の執筆を加えて出版することにした。その際,直接の教え子ではない方々の執筆を優先し,教え子には限られたごく少数の人たちにということにした。そうしないと,膨大なページ数の本になってしまうため,やむなくそういう方針をとることとした。
 また,それとは別にいわば特別ゲストとして京都大学の杉原保史教授と九州大学の當眞千賀子教授に,私の仕事に関連したことについてご執筆いただくことにした。このお二人には,私の仕事を位置づけることに見事に貢献していただけただけでなく,心理臨床という営みをより広くより深く理解することに貢献していただいたのではないかと思う。
 よくぞこれだけの皆さんが快く書いて下さったものだと思う。本書の出版には,私自身が励まされる思いがするが,同時に,お読みいただければ,その内容の拡がりと豊かさを感じていただけるものと思う。本書が私自身の自己満足に終わるのではなく,心理臨床の将来に種をまくものであると,私自身は信じたいが,果たしてどうであろうか。
 本書の出版にあたって,快く書いて下さった皆さんと,その出版をお引き受けいただき,さらにこまやかにお世話いただいた金剛出版社長立石正信氏に深く感謝申し上げます。

定年退職を迎えるにあたって 田嶌 誠一