『現実に介入しつつ心に関わる[展開編]−多面的援助アプローチの実際』

田嶌誠一編著
A5判/400p/定価(4,400円+税)/2016年2月刊

評者 福山和女(ルーテル学院大学名誉教授)

 本書の「現実に介入しつつ心に関わる」つきあい方が,多面的援助アプローチの特徴であり,人をとりまく現実との接面で,その人の心に関わることであるとした考え方は,ソーシャルワークの基本概念である「人と環境の交互作用」での人の理解に合致しており,「人と対等に関わること」の「対等性」を探究する上で,大変参考になる視点である。
 長年のソーシャルワーク援助をとおして,「三次元立体把握アプローチ」(3D cubical perspective approach)を提唱し,人の尊厳の保持を基本姿勢とした人の立体的理解から援助・支援を展開してきた評者の経緯からも,このアプローチに強い関心をもつ。
 多面的援助アプローチの構成概念のうち,「田嶌流臨床的工夫」「つきあい方」「体験様式」「壺イメージ法」の四つを紹介したい。

田嶌流臨床的工夫
 田嶌流心理臨床の知恵の紡ぎ方の例として,田嶌論文(1991)「青年期境界例との『つきあい方』」について「きわめてどっしりとした臨床実践の積み上げにもとづいていることを感じさせる安定感をもって,『つきあい方』ということばで表現されはじめた臨床を語り伝えている」(p.15)として,田嶌流臨床的工夫が適確に描写されている。

つきあい方
 難しいクライエントとのつきあい方,症状とのつきあい方については,「自然な人と人との無自覚な付き合いとは異なる,臨床的見立てにもとづいた工夫や手立てがさりげなく織り込まれた『つきあい方』」(p.16)であり,論者は自覚的・意図的に一貫してこの用語を使用している。

体験様式
 上述のつきあい方をクライエントの多様な体験様式と関連づけている。たとえば,「(どうにもならない)クライエントの体験様式を変化させるためのつきあい方や内的・外的世界とのこれまでとは違ったつきあい方,換言すれば,違った体験の仕方ができるような」援助(p.17,およびp.202),また,クライエントの周りの「複数かつ多様な役割を担う人々とのネットワーク」(p.18),すなわち,「既存・修復・新生(形成経緯的),持続的・一時的(タイムスパン的)」(p.21)ネットワークを形成・活用した「『支持的受容的』機能を備えた(クライエントとの)『つきあい方』」の実現(p.20)そして,面接室内のカウンセリングだけでなく,クライエントを「とりまく生活空間全体に注目し,その人に合った幅広い,多面的援助方式」(p.23,およびp.194)を取り入れ,多面的援助アプローチの必要性(p.195)を概説している。

壺イメージ法(p.109)
 その援助に壺イメージ法を提唱し,「内的イメージを膨らませ体験させる作業」として,@危機的体験が急激に進まぬように安全弁の壺を活用し,Aクライエントが体験的距離をコントロールできるように援助している。これは,クライエントの工夫する能力を育成するためにクライエントとの関係を基盤に行われる。

 本書を読み進めるうちに,クライエントという人を,面接室に来所したひとりの人というイメージから,これまで生きてきた現実,すなわちプロセスやネットワークをはじめとするすべての関わりを多面的に体験してきた人であると理解できた。援助プロセスの中での人間と人間とのつきあい方をすることの大切さを体験させてくれた優しい,柔らかな,ぬくもりのある不思議な書物である。