『双極性障害のための認知行動療法ポケットガイド』

ルース・C・ホワイトほか著/佐々木 淳監訳
A5判/200p/定価(3,000円+税)/2016年3月刊

評者 東 斉彰(甲子園大学)

 本書は双極性障害を持つ人のための自助マニュアルとして書かれたものである。本場のアメリカのみならず,今や世界水準の認知行動療法(以下CBT)を基盤として記述されている。評者は初めて目にする著者名であったが,第一著者のRuth Whiteは南カリフォルニア大学でソーシャルワークを教える教員で,自らも双極性障害を持っているとのことである。一読して,何て読みやすく,患者(クライエント)向けに書かれた自助本としては完璧だと思ったのだが,筆者の経歴を知って合点がいった。
 内容をざっと概略すると次のようになる。第1章では原因や診断,治療の必要性などを述べて双極性障害の理解を促し,第2章では治療の受け方について説明して,治療への動機づけを高めている。第3章以下では,薬の飲み方,症状の引き金の見つけ方,ストレスへの対処,良質な睡眠習慣の導入,運動の習慣づけ,栄養とサプリメントのとり方,サポートシステムの築き方を順序よく並べて記述している。
 また,各章ごとにACTION STEPを設け,実際にセルフヘルプするための記録や実行の指針を提示してくれている。患者はじっくり本書を読み,著者の示唆通りにACTION STEP を実行すれば,双極性障害の克服に向けて着実に歩を進めることができるだろう。
 さて,アメリカやイギリスのようなCBTの先進国にはこの手の患者マニュアルが山ほど存在するし,日本でも旧来のうつ病や不安障害に次いで徐々に双極性障害のCBT マニュアルが(翻訳を中心に)出版されるようになった。日本語で読める書籍の中では,本書が読みやすさ,丁寧さ,患者目線での書き方,使いやすさの点で群を抜いているのではないかと評者は感じた。それは,先述したとおり著者が双極性障害の当事者であることが関係していると思われる。(双極性障害を中心とした)読者への共感性が優れていることが本書の成功のもっとも大きな要因と言ってよいだろう。また,監訳者がまえがきで述べているように,双極性障害ではない一般の人々にもヒントを提供してくれるという見解にも評者は賛同する。他の精神疾患一般にも(もちろん各疾患の特異性も踏まえながら)十分適用可能だろう。
 最後に,本書の読後感をひとことで述べるならば,「優しさ」であろう。書き方の平易さ,患者を無理なくセルフヘルプに導く繊細な配慮,患者への気遣いなどが際立っている。おそらく双極性障害の当事者である著者自身が苦しい病状を乗り越え,自身を優しくいたわることを悟り,それがそのまま患者へのいたわりにつながっているのだろう。評者は監訳者の佐々木淳氏をよく知る者であるが,彼もまた優しさの人である。佐々木氏が本書に目を通して,その優しい筆致に心を奪われ翻訳に思い至ったことは想像に難くない。評者はCBTに限らず,心理療法は優しさが根本条件だと思っている。優しさにあふれる著者らが双極性障害の病理や症状を的確に把握し,CBTの方法論を確実に理解し,患者目線で書いた本を,佐々木氏たちのような人が日本語に訳してくれたのだから,患者にとっての良書にならないはずがない。本書を,双極性障害に苦しむ患者さんたち,そしてその援助に悪戦苦闘する心理療法家に強く推薦したい。

原書:Ruth C White, John D Preston : Bipolar 101 : A Practical Guide to Identifying Triggers, Managing Medications, Coping with Symptoms and More