『教師のためのほめ方ケースワーク20―行動観察で子どもが変わる! クラスが変わる!』

小笠原 恵著
四六判/200p/定価(2,200円+税)/2016年4月刊

評者 増田健太郎(九州大学)

 皆さんは,ほめられた体験と叱られた体験とではどちらが多いだろうか。どちらが,自分を変える体験になっているだろうか。私は小学校3年生のとき,ベテランの男性の先生に「授業が始まる前の姿勢がよい」ことをほめられ,それ以来,ほめられたいためにいつも姿勢に気をつけていたことがある。また,小学校5年生のとき,嫌いだった女性担任の先生に,ある日突然,家庭科の裁縫の時間に教卓のところに呼ばれ,「最近,とても表情が明るくなったね。態度もよくなったね」とほめられた。いつも先生に反抗していたのにどうしてなんだろうと不思議な気持ちになったことを,昨日のことのように覚えている。
 さて,本書は具体的な事例を提示して,その児童生徒の行動や家庭的背景,担任の性格・指導力や教職員関係性などを提示したうえで,児童生徒の行動観察を通して,子どもや集団の問題行動は何が要因で,何を認め,何をどのようにほめたらよいのかを具体的に示している。限られたスペースのなかで,その場面を映像としてイメージできる描写,具体的に「どのようにほめたらよいか」というフレーズが随所に散りばめられている。
 第1部の実践編では「クラス編」と「個人編」があり,ルールを守らない集団や「学級崩壊」への対応,個人編では発達障害児童に対する対応など,学校現場ではごく当たり前に起こっている困った状況を「認め,ほめ」,そして行動変容させることを,専門用語ではなく日常のわかりやすく言葉で提示している。特に発達障害の子どもたちは,叱られることが多く,二次障害としての不登校が多いのが現状である。ほめることによって,本人の自尊感情を高め,周りとの関係を改善し,本人のやる気を育てる方略が記されている。さらに第2部の理論編では,調査研究や理論をもとに「ほ
めること」の心理学的な意味づけがなされている。ほめる行動にも「純粋ホメ」「あいさつホメ」「方略ホメ」の3種類があり,効果的なほめ方と同時にほめることの副作用も記してある。この第2 部が具体的実践を理論的に裏付けるものになっている。
 私は海外調査で4年前フィンランド・オウル市において,1カ月間,小学校・中学校・高校の先生の家にホームスティをしながら,大学で講義したり,小・中学校で授業をしたりしたことがある。また,オーストラリアの大学,小学校・高校,アメリカの大学や小学校・チャータースクールなど欧米の学校の視察を行い,欧米と日本の学校教育の違いを考えされられた。「自発性・主体性」が欧米の学生と日本の学生では全く違う。その要因の根本には,日本は「叱る文化」であり,欧米は「ほめる文化」が基盤にあるように思う。国際比較調査でも,日本の中学生・高校生の自尊感情はかなり低いことが報告されている。日本の叱る文化と関係があるように思える。
 教師やスクールカウンセラーが本書を精読し,実践していくことが「叱る文化からほめる文化」への小さいが大きな転換点になると思われる。そのための必読の一冊である。