『ある臨床心理学者の自己治癒的がん体験記―余命一年の宣告から六年を経過して』

山中 寛著
四六判/200p/定価(1,800円+税)/2016年5月刊

評者 成瀬悟策(九州大学)

1.余命1 年のがん告知とがん手術

 著者は,疲労感や下血などがあり,M医師の健康診断を毎月3年間受け,何でもないはずなのにO医師の内視鏡検査で,大腸の管状腺がんが肝臓に転移,流れが止まり黄疸になっており余命1年と告知,強烈な死の恐怖に襲われた。
 定評あるU医師の慎重な事前の検査後,3cmの患部とその上3cm,下7cm,計13cmを切除摘出した。手術中点滴液に入れた抗がん剤への強烈なアレルギー反応で,高熱,赤い皮膚発疹で痒いうえ,一気に気道が腫れて呼吸困難となり,前立腺への感染症も生じ,サンダックをはじめ,新薬類一切を中断。一応安定した。

2.転移がんの手術拒否で自己治療決意

 4カ月後,U医師から改めて肝臓がんの手術を提案され,あの強烈なアレルギー反応には命も危ないが,それに現代医学は何の手も打てなかったことを思えば,もはや手術に自分の「命」は預けられないと覚悟した。それでは標準医療ではもはや面倒が見切れないというので,お互い合意のうえ袂別する。ここでいよいよ現代医療から離れ,これまで臨床心理学者として,殊に心理療法として自分たちで開発,試行してきた自己治療の諸法を自分自身のからだとこころで実践・検証することを決意。まずCT,MRI,PET,血液検査を受け,2011年,転移した肝臓がんはその後も変化なく正常範囲だし,特に痛みの症状もないので,いわゆる代替医療によるホリスティック治療を次のように計画した。

  • a . 自己観察と記録:心落ち着き,資料残し
  • b . 漸進弛緩法:緊張−弛緩で全身を弛める
  • c . 自律訓練法:軽トランスと自己暗示
  • d . イメージ法:快イメージ,自信イメージ
  • e . 動作法:心身一体活動で心身の自己治療
  • f . スピリチュアル体験:自己治療を励ます

3.自己治療体験記の執筆

 「1年で2の3乗倍に膨れる」はずのがんが6年経過で,MRI,血液検査その他の検査に変化なく,正常範囲を保っている体験を,これまでのホリスティックな自己治療の貴重な一事例として臨床心理学に提供し,しっかりした事例研究を迫り,殊に治療心理学に貢献すると同時に,内視鏡検査とがん手術という現代医療に反省を促し,「がんイコール死」という一般の定説を見直す重要な資料として役立てたいという強い願いが本書執筆の動機と受け取った。自己治療の仲間として研究を共にしてきた筆者としては,著者の凄い迫力を感じ,願いを重く受け止めて,特に,こころとからだを一体的に治療する「動作法」をもっと具体的で適用・実践しやすい形にすることを要求されているものと受け止めている。
 「身をもって」確かめたこの貴重ながん体験記を完結した著者は,その1週間後に,死の恐怖から解放された安静状態で息を引き取ったとのこと。あらためて著者のご冥福を祈る。