本書はアルド・プッチの「合理生活療法」(Rational Living erapy:RLT)の入門書であり,セルフ・カウンセリングを支援するための本です。RLT は認知行動療法(Cognitive Behavior erapy:CBT)と原理を共にする仲間であり,CBT の技法のひとつとして位置づけられます。
 この心理療法の特長は,精神健康のために自分自身が努力できる部分を明確にしていることです。医師が治療する領域以外の(つまり,病気ではないために,自らの力で対処できる領域の),思考のかたよりに由来する心の不具合を徹底的に切り出し,かたよった思考を当事者自らが修正する方法をわかりやすく具体的に示しています。また,思考だけでなく,バランスの良い栄養摂取やスポーツのような身体活動をも含めた総合的・体系的なアプローチを通して,精神的なセルフコントロール力を獲得できるように構成されています。このようなRLT/CBTは,当事者に役立つだけでなく,セラピストの治療指針としても役立つでしょう。
 本書は一貫してセルフ・カウンセリング術の習得を目指していますが,この概念や手法は,プッチの指導者であるモールツビー(Maxie C. Maultsby, Jr.)が最初に提唱したものです。モールツビーは,エリス(Albert Ellis)と協同して心理療法を研究,臨床実践し,論理情動療法(Rational Emotive Behavior erapy:REBT)をベースにした「合理行動療法」(Rational Behavior erapy:RBT)という方法を打ち立てた米国の精神科医です。彼はRBT に基づいた「合理的セルフカウンセリング」(Rational Self-Counselling)を40 年前から提唱しており,これが本書にも大きな影響を与えています。このような功績により,彼は米国精神医学会から終生名誉会員の称号を与えられています。
 プッチのRLT はRBT の発展型だと言えるでしょう。思考チェック法(「3 つの合理的質問」)や,知識が習慣化するまでの段階(「感情の再教育」)といった,クライエントが手こずったり,疑問を抱きやすかったりする部分に対する具体的回答を用意することで,思考を修正する道のりを見通しよくしてくれています。
 また,RLT の独自性は,これまで慣習的に使われてきた言葉を批判的に分析して,平易な言葉で丁寧に説明し直しているところにもあります。これによって,クライエントは思考のかたよりを,自らの力でより正確に特定したり認識したりできるようになります。加えて,ベック(Beck,A.)が提唱した「認知のゆがみ」を26 個に分け,一つひとつの特徴を一目でわかるようにしています。この26 個の「思考ミス」を認識して修正することは精神健康にとって大いに役立ちます。訳者が実践している個別・集団セッションのクライエントも,後々まで「この方法が仕事・生活のなかで役に立っている」と口にしています。つまり,RLT は,心理療法の技法というよりも,その名の通り「生活の知恵」として身につける方法だということもできます。
 RLT の技法を他のCBT の技法と相補的に利用することによって,当事者は心の不具合のメカニズムとその修正方法をさらによく理解できるようになり,彼らの精神安定の回復,維持,向上が確実なものになります。本書が少しでもその役に立つことができれば,訳者としてこれ以上の喜びはありません。

森重さとり・石垣琢麿