『いつまでも健康で幸せに生きる!認知行動療法セルフカウンセリング・ガイド』

アルド・R・プッチ著/森重さとり,石垣琢麿訳
B5判/176p/定価(2,800円+税)/2016年6月刊

評者 田中恒彦(新潟大学人文社会・教育科学系 教育学部)

 本書はChallenge the CBTシリーズの一冊であり,Rational Living Therapy(合理生活療法)の入門書である。本書はセルフヘルプ本としての側面が強いが,セラピーを提供する側の人間にとっても体験的に合理生活療法を理解し,即臨床に導入できるような構成となっている。評者は1カ月ほど本書を用いてある問題に取り組んでみた。そのなかで感じたことや体験したことを記して本書の書評とさせていただきたいと思う。
 序章から第1章ではセラピーの目標と人生の目標(!)を書き出し,自身の生活を見直すことが促された。セラピーの目標もさることながら,人生の目標を改めて見つめることは恥ずかしくも興味深い経験だった。言葉にしてみる,書き出してみることの大切さを実感できたし,自身の目標と普段行っている生活の解離に直面化させられることになった。目標から離れるような生活を送っていることについて,ついつい言い分けのような自動思考がうまれてくるのだが,そのすぐ後に第2章で「セラピーを妨げるもの」として,抵抗や恐れ,恥などを含めた「言い訳思考」の心理教育と対処法が示される。実にこちらの気持ちを汲んで対応をしてくれる良いテキストだ。第3章からは,いわゆる認知と感情のABCについての検討,根本信念(スキーマ)の発見,合理的な考えを発見する方法を身につけるべく解説を受けワークに取り組んでいく。ここでも一貫して強調されるのは「どうすれば自分の望む方向に進むことができるか」ということである。自分の抱えている問題や自分を困らせている感情は,自分自身が作り出してしまっている部分がある。そして自分が作り出してしまっている部分に気付くことで,自分自身を最初に設定した目標や,望ましい感情に向かって変えていくことができる。本書を読みながら,評者はずっと「このカウンセラーはブレないなぁ……」と考えていた。時には「わかってるよ。自分が感情に振り回されてるって言いたいんだろう? イラつくなぁ……」と思ったりもしたのだが,それすら「別にこの本はそんなこと書いていないし,ここでイラつくことは目標達成の役にはまったく立っていないし,自分が感じたい感情とはまったく違う」ので合理的でない考えに振り回されている自分に気付かされるのである。合理的でない思考に振り回されていることに気付かされたのち,7章に入ると「陥りがちな“思考ミス”」について解説が入れられる。余談だが,評者はこの「思考ミス」という表現に既存の「認知の歪み」という表現よりも好意を抱いたが,家人に聞いたところ「ミスって言われると自分が悪いように感じるので嫌だ」という返事が返ってきた。言葉ひとつでも浮かんでくるイメージと誘発される感情は違うものだ。とかく認知には困らされる。十分に自分の不合理に気付かされ,合理的に振る舞うことの大切さを教えられたところで,8章からは行動に移すことを促される。計画を立て,段階を作り,練習を行い,実行に移す。さまざまなテクニックが合理的な生活に向かうために使われる。
 さて,この本を通して行ったセラピーによって何が達成できたのだろうか? その一つは今読者が読んでいるこの原稿である。評者の遅筆に対してもこの本はどうやら効果的であったようだ。

原書 Aldo R. Pucci : The Client’s Guide to Cognitive-Behavioral Therapy : How to Live a Healthy,Happy Life...No Matter