『ロールシャッハ・テスト講義U−解釈篇』

中村紀子著
A5判/320p/定価(4,200円+税)/2016年6月刊

評者 村上 貢(村上カウンセリングオフィス)

 この本は,すでに出版されておりました「基礎編」に続く「解釈編」です。基礎編においてロールシャッハ包括システムの歴史からコーディング,すなわちテストにおける反応を「ロールシャッハ言語」にどう翻訳するか,という点について主に述べられたのに対し,この本ではその翻訳されたロールシャッハ言語をいかに読み込み臨床的な解釈に結びつけていくかについて詳しく述べられています。
 著者が繰り返し述べる通り,包括システムによるロールシャッハ・テストを実施するためには,まずその教科書といえる,エクスナー博士による『ロールシャッハ・テスト―包括システムの基礎と解釈の原理』(金剛出版)を読むことが必須です。ここにはコーディングや解釈の骨組みとなる多くの研究が示されており,膨大な実証研究をもとに解釈仮説を導いてきた,包括システム研究の優れた点が余すところなく述べられています。ただし,純粋にこの本だけに基づいて解釈を行うことは,ほとんどの初学者にとって難しいことと思われます。ともすると,いかにも教科書から持ってきて切り貼りしたような,不十分で味気のない,骨組みだけの理解や記述になりかねません。そのようなテスト結果の解釈を見聞きした方々が,包括システムによる解釈がそういうものだと誤解してしまうことは非常に残念なことと言わざるを得ないと,自戒を込めつつ思います。
 著者によるこの本は,エクスナー博士による教科書が骨組みであるならば,それに肉付けを行うのに役立つものと言えるかもしれません。著者が長年にわたって継続している講座の記録であるテープをもとに作成されたとのことで,なるほどこのテストがいかに面白く,役立つかについて熱心に語る著者の肉声がここでは著されており,表現には体験的な記述が加えられ,一つひとつの指標の意味が理解しやすくなっています。例えばエクスナー博士の「教科書」において「感情を調節する」と端的に説明されているところに「水道の蛇口をひねって」感情を調節するようなもの,という比喩的,体験的な説明が加えられている,といった調子です。このような説明は,生き生きとした解釈に結びつくだけでなく,臨床場面でクライアントにテスト結果を伝える際にも有効なものです。クライアントという非専門家に,テスト結果という専門的情報を噛み砕いて伝え共有することの重要性をいち早く説いてこられた著者だからこそ,わかりやすく,かつ実感をもって理解しやすい生き生きとした言葉が,次々と一つひとつの指標や数字という骨組みに,生命を与えるのではないかと思います。ロールシャッハ・テストの結果を正しく理解するためにはもちろんのこと,結果を臨床場面で有効に活かそうと考える読者にとっても,多くの示唆を与えてくれる著書であると思います。