『発達障害児のためのSST』

S・W・ホワイト著/梅永雄二監訳/黒田美保,諏訪利明,深谷博子,本田輝行訳
B5判/220p/定価(3,200円+税)/2016年8月刊

評者 稲田尚子(日本学術振興会/東京大学教育学研究科)

 本書は,スーザン・ウィリアムス・ホワイトというサイコロジストによって書かれた本である。
 2011 年に刊行された原著タイトルは,Social Skills Training for Children with Asperger Syndrome and High-Functioning Autism であり,7歳から17歳程度の知的障害を伴わない高機能自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder:ASD)の児童・生徒に対するソーシャルスキルトレーニング(SocialSkill Training:以下SST)に焦点が当てられている。学齢期の子どもに対するアプローチは,幼児期の子どもや成人に対するアプローチとは質的に異なり,また知的障害の有無によってもアプローチが異なるため,対象年齢帯や知的水準が特定されている。
 本書は8章から構成されており,「はじめに」に始まり,「臨床的評価とソーシャルスキルのアセスメント」「介入の種類と,ASDに併せた改変の方法」が続き,「SST グループ」「教室でのトレーニング」「クリニックでのトレーニング」「家庭でのSSTの促進」について述べられ,「成人生活へ向けてのソーシャルスキルの改善」で結ばれている。いずれの章も具体的な事例とともに,問題が起きた場合にどう解決していくかなども含め丁寧に書かれている。そのため,事例で挙げられている子どもの様子やトレーニングについて,具体的なイメージを浮かべながら,また読者自身が実践する場合の様子をシミュレーションしながら読み進めていくことができる。巻末の附録には,本書内で紹介された記入フォームが,「コピーできる記入フォーム」として10種類附録されており,実践の際にケースに必要なものを使用できるようになっている。
 本書が,SSTのほかの関連書籍と一線を画す最大の点は,ASD児のソーシャルスキルの獲得や般化の困難さの背景にある,「心の理論」の障害,実行機能の障害,中枢性統合の脆弱性などの認知障害仮説を踏まえ,認知的に高機能ASD児の社会的機能を効果的に改善するための新しい方略に関する適切な情報を提供している点であろう。つまり,従来のSSTは行動レベルでのアプローチであったのに対し,本書はASD児の認知特性を十分に把握した上で,ASD児にあわせて改変した新しいSSTのアプローチに関する実践が報告されている。一方で,本書は,単に一つのカリキュラムを提供しているわけではない。さまざまな領域からの情報を統合し,概念的な情報と実践的な情報が提供されている。それにより,読者が個々のクライエントの状況とニーズに対して,最も適切なアプローチをカスタマイズし,実践できるようになるようにガイドしている。学童期の高機能ASD 児に関わる専門家やご家族に
一読をすすめたい良書である。

原書:Susan Williams White : Social Skills Training for Children with Asperger Syndrome and High-Functioning Autism