『犯罪心理鑑定の技術』

橋本和明編著
A5判/256p/定価(4,200円+税)/2016年7月刊

評者 渡邉和美(科学警察研究所)

 私が司法精神医学の教室で学んだ大学院時代には,医療観察法の成立による精神鑑定のニーズの高まりや,裁判員裁判導入に向けて一般市民への精神鑑定結果のわかりやすい説明という新たな課題に応えるために,司法精神医学の専門家たちが精神鑑定を実施できる医師の育成システムの構築や,法廷における鑑定結果の呈示方法の整理などに取り組む姿を見てきた。いま,心理学鑑定も同様な課題に直面しているのではないだろうか。心理学鑑定も,かつては,犯罪者・非行少年の評価や介入を行う公的機関で一定の訓練を受けた者が主に行っていた。しかし,本書のなかで編著者の橋本先生が指摘するように,裁判員裁判の導入によるニーズの高まりにより,裁判員となる市民の方々に対し,対象となった犯罪者や非行少年の事件について,またその原因や背景,対象者の弱みや強みについて,わかりやすく説明することが求められる機会が増え,それにかかわる心理学者も多様になってきているようだ。
 一方で,心理学はとかく「よくわからない」「うさんくさい」という疑念を抱かれやすく,そうした感覚が広く一般的であることは,いろいろな書店の心理学コーナーを見ると明らかであり,心理学の専門性については社会に十分に浸透しているわけではないという現状がある。こうした心理学に関する誤った認識を払拭し,心理学鑑定の専門性を明確にしていくためには,心理学鑑定に関する知識を整理して社会に示していくとともに,心理学鑑定を行う力のある専門家を育成していくことが必要となってくる。
 本書は,そうした現状に応えるためのものであり,心理学鑑定に関する知識を初めてまとめた書である。心理学鑑定に関する知識をまとめて社会に提示する作業は,これまで心理学鑑定に関わってきた専門家としての責務であり,編著者の橋本先生はまさにその責務のひとつを果たしたといえるだろう。本書では,心理学鑑定とは何か,司法で心理学の専門家に何が求められ,どのような姿勢で臨み,どのような方法論で実施し,鑑定結果をどのような形で法廷のなかで説明していくかについて,事例や調査結果を提示しながら具体的に説明している。また,心理学鑑定に関わる心理学の専門家のほか,元裁判官や弁護士などの法律家や精神鑑定医も執筆者として名を連ねており,司法に関わる領域の複数の視点から心理学鑑定を説明するものとなっている。そのため,自身の持つ心理学の専門性を生かして心理学鑑定に取り組みたいと考えている心理学の専門家にとって,心理学鑑定を学ぶためのファーストステップとして有用な本といえるだろう。また,心理学の専門家のみならず,心理学鑑定を利用したいと考える司法関係者にとっても参考となる情報が詰まっており,ぜひ手にとっていただきたい本である。