『アンガーマネジメント 11の方法―怒りを上手に解消しよう』

ロナルド・T・ポッターエフロン,パトリシア・S・ポッターエフロン著/藤野京子監訳
B5判/200p/定価(3,400円+税)/2016年9月刊

評者 門本 泉(東京少年鑑別所)

 本書は,ロナルド・T・ポッターエフロンとパトリシア・S・ポッターエフロンという二人のサイコセラピストによる,自分を幸せにはしない怒りを「手放す」(letting go)ための啓蒙書,セルフヘルプ本である。
 これまで,アンガーマネージメントといえば,いらいらや怒りの感情の調節,怒りに結びつきやすい認知の修正に関するテクニックとして取り上げられることが多かった。しかし,本書で扱おうとしているものは,そうしたアンガー(「怒り」と本書では表わされる)のイメージを超えたもっと広いものである。
 以下のように,著者はアンガーを,3つのクラスター,11 の側面でとらえる。例えば,「隠された怒りスタイル」では,粗暴な言動としては顕在化しない怒りについて詳述されている。自分が善良な平和主義で,アンガーとは無縁だと思っている人は,そこに描写されている人物像が自分とあまりに似ていて,どきっとするかもしれない。怒りの新たな側面に光を当ててから,「爆発的な怒りスタイル」「慢性的な怒りスタイル」へと読み進むと,多くの人間のなかにある怒りの多様性に驚き,寛大さをもってそれらを理解できるようになる。そして,本書ではもちろん,それぞれの怒りを解説するだけでなく,これらのスタイルから抜け出すための処方箋も丁寧に紹介されている。

さまざまなアンガーのスタイル
隠された怒りスタイル
  • @怒り回避
  • A陰険な怒り
  • B内に向けられる怒り
爆発的な怒りスタイル
  • C突然の怒り
  • D恥に基づく怒り
  • E意図的な怒り
  • F興奮するための怒り
慢性的な怒りスタイル
  • G習慣的な怒り
  • Hパラノイア(恐れに基づく怒り)
  • I道徳的な怒り
  • J憤り/嫌悪

 本書のもうひとつの魅力は,言葉も論旨も非常に明快かつ明解であることだろう。一般書として書かれているだけに,文章は平易で,ユーモアとウィットに富み,時にシニカルである。また,多くの事例がちりばめられており,読者が自分の怒りを振り返る助けになっている。
 評者が最も気に入ったのは,「怒りは贈り物である」という一文である。怒りは,しばしば人生を不幸にする醜いものとして忌み嫌われるが,本来,怒るという人間の特性自体は決して悪いものではないのだ。それは私たちが生まれながらに恵まれている自然な部分で,生きていくのに大切なものである。この著者の主張が,本書を通して貫かれているおかげで,自分の「問題」について鋭い指摘をされつつも,読み手は,どこかほっとする体験をすることができる。
 このように,カウンセリングやサイコセラピーのクライエントのみならず,本書は多くの人に有用な本と言える。学校,司法,会社組織など,多くの場で働く専門家にもぜひお薦めしたい。
 他方,本書は,自我の強さをある程度当てにするアプローチが中心となっている。自我が脆弱な人,自我境界に重篤な病理を持つ人,根深い愛着の問題を抱える人などには,部分的な適用を慎重に検討することが勧められるかもしれない。また,多くの示唆深い指摘があるだけに,巻末に文献リストがないことは少し残念だった。だがこれは,本書で学んだことをより深く「考える」よりも,実生活ですぐに試しなさいという著者の思惑なのかもしれない。