『アンガーマネジメント 11の方法−怒りを上手に解消しよう』

R・T・ポッターエフロン,P・S・ポッターエフロン著/藤野京子監訳
B5判/200p/定価(3,400円+税)/2016年9月刊

評者 境 泉洋(徳島大学大学院総合科学研究部)

 その昔,筆者も怒り感情について研究をしていたことがある。そのころバイブルのように読んでいた書籍に「Anger Disorders : Definition, diagnosis,and treatment」(Kassinove, 1995)がある。この書籍はタイトルのごとく,怒り障害(今日でいうならば,怒り症)というものを提唱し,怒り感情の認知行動論的メカニズム,さらにはその治療効果についてメタ分析を行うという当時では画期的な書籍であった。Anger Disorders という名称は,当然,DSMを意識した名称であったといえる。しかし,その後,改訂を重ねたDSM においてもAnger Disordersというカテゴリーは設けられることはなかった。怒り研究に携わっている一人としては,DSM の改訂版を見た時に残念な思いを抱いたものである。
 怒り感情がDSM のカテゴリーとして設けられなかった最大の理由は,怒り感情を抱いている人自身に治療意欲が乏しいという点であると考えられる。つまり,臨床現場では怒り感情を主訴とするクライエントは主流ではないということである。筆者自身も臨床の現場でカウンセリングをしているが,不安,うつなどと比べて,自身の怒り感情を主訴に相談に訪れるクライエントは(いないわけではないが)極めて少ないのが現状である。
 こうした経験を持つ筆者にとって,本書は怒り研究の難題を打開してくれる良書であると感じた。本書は専門家だけではなく,怒りについて多くの人に知ってもらうのに適した啓蒙書である。本書を読み進めていくと,怒りという感情の多様性を知ることができる。そして,自分自身の葛藤が怒り感情と関連するものであると理解できるようになる。
 本書の構成は11の怒りについてわかりやすいエピソードを交えて解説するとともに,それぞれの怒り感情がなぜ生じるのか,そしてそれにどう対処していけばいいのかが平易な言葉で解説されている。
 本書で取り上げられている11 の怒りは隠された怒り,爆発的な怒り,慢性的な怒りと大きく三つのスタイルに分類されている。この中でも,自身では気付きにくい怒りは,隠された怒りスタイルではないだろうか。隠された怒りには,怒り回避,陰険な怒り,内に向けられる怒りがあり,表立たない怒りの問題が詳述されている。
 また,爆発的な怒りの中には,突然の怒り,恥に基づく怒り,意図的な怒り,興奮するための怒りがあり,怒り=攻撃という単純な構造ではない,怒りの多様性を伺い知ることができる。さらに,慢性的な怒りスタイルでは,習慣的な怒り,パラノイア,道徳的な怒り,憤り/嫌悪といった持続する怒り感情について解説されている。
 本書の構成の中で,筆者が啓蒙書としても優れていると感じた点が,それぞれの怒りを抱くようになったプロセスについての腑に落ちる説明であった。その説明を読むと,どんな怒りにも意味があり,その人自身を成長される原動力となるというメッセージが込められている。このことは,怒り感情を自身の問題として受け入れ難い多くの人にとって,安心して怒り感情と向き合うための最善の方策であると感銘を受けた。

文  献
Kassinove H(Ed)(1995)Anger Disorders :Definition, diagnosis, and treatment. Taylor &Francis.

原書:Ronald Potter-Efron, Patricia S Potter-Efron :Letting Go on Anger : The eleven most commonanger styles and what to do about them―2ed ed