『実践 心理療法−治療に役立つ統合的・症状別アプローチ』

鍋田恭孝著
A5判/346p/定価(4,200円+税)/2016年9月刊

評者 平木典子(統合的心理療法研究所)

 著者鍋田氏の長年の心理療法の理論・技法の統合的実践がついに集大成された待望の書である。その筆致からは,著者自身の「現場に役立つアプローチを!」というプロの臨床家としての責任感とたゆみない実践と研究への情熱が伝わってくる。
 本書は総論(1〜5章)と各論(6〜12章)の2部構成になっている。
 1章では,心理療法の対象となる症状や悩みの背後にある経験をモデル化して,5種類の治療法の発展の系譜を紹介。催眠療法における心理的外傷体験を「外傷体験モデル」,精神分析における欲動と抑圧の葛藤体験を「葛藤モデル」,ネオフロイディアンから人間性心理学のアプローチにおける対人関係の中で自分を生きられてこなかった体験を「偽りの役割モデル」,境界性パーソナリティ障害に代表される関係性の欠如による人格構造の病理を「欠損モデル」,認知行動療法に代表されるアプローチにおける多様な機能の低下・不全を「機能不全モデル」として,統合の基礎を提示する。2章では,人の悩みには「健康な悩み」「神経症的悩み」「人格の統合性の問題」「病態化のプロセス」「素質の要因」があるとしてそれぞれの悩みの特徴を明確にしつつ,そこにはさまざまな要因が重層的に重なっていること,それにもかかわらず中心テーマを決めて統合的にアプローチする必要があることを強調する。
 以上の理論化を踏まえて,3章では,セラピストの仕事として,「心理教育的アプローチ」「問題解決的アプローチ」「人生全体を扱うアプローチ」の3ステップアプローチが提示される。4章では,治療促進因子(therapeutic factor)としてセラピストが意識し,自覚する自己の要因を,@治療者自身の存在・雰囲気,A探索的・知的因子:「汝自身を知れ」,B体験的要因,C訓練的因子,D成長促進因子から語られ,5 章神経科学から見た心理療法では,症状を取り上げながら,近年の脳科学の知見を活かす実践の方向性を示唆している。
 各論では,6章:不登校・ひきこもり,7章:対人恐怖症・社交不安障害,8章:身体醜形障害,9章:強迫性障害,10章:うつ病,11章:ヒステリー・境界性パーソナリティ障害,12章:パニック障害・嗜癖・心身症,その他の障害について精神病理学的問題の解説と3 ステップアプローチが示される。
 上記の目次を一瞥して,著者の人間全体を扱う支援への真摯な追求と世界の心理療法の動向に敏感に反応しながら貪欲に必要なものを吸収していった姿が伝わってくるだろう。加えて,数多くの事例やエピソードが綴られたコラム,立ち止まって考えさせる挿入句,ていねいなまとめの言葉などからは,精神分析を基盤とした豊かな連想と発想,人間への深い関心と限りない優しさが感じられる。心理療法の実践家はもとより,理論家,教育者にぜひ一読してほしい一冊である。
 なお,関係性の問題・病理を中心とした統合を考えてきた評者があえて一言付け加えるとするならば,「偽りの役割モデル」の発展としてナラティヴアプローチ,オープンダイアローグの展開について一言触れてほしかった。