『メディカルファミリーセラピー―患者・家族・医療チームをつなぐ統合的ケア』

スーザン・H・マクダニエルほか著/渡辺俊之監訳
A5判/450p/定価(6,800円+税)/2016年9月刊

評者 後藤清恵(国立病院機構新潟病院)

 著者の一人Susan H. McDaniel は,本書のなかでメディカル・ファミリーセラピーを説明して「医学的問題に取り組む個人や家族の協働的な治療に,生物心理社会的モデルとシステム論的なファミリーセラピーの原則を用いた専門的治療形態である」と述べている。本書『メディカル・ファミリーセラピー』は,東海大学渡辺俊之教授らによって翻訳された労作である。家族療法だけでなく,第T部「メディカル・ファミリーセラピーの基礎」から始まって,第U部「ライフサイクルに応じたメディカル・ファミリーセラピー」,第V部「結論」まで,在宅医療から遺伝疾患や難病,あるいは介護,身体疾患に至る家族支援における統合的ケアが示されており,全体を通して,人に関係する,人を援助するための,あらゆる領域にわたる考え方と手法が記載されている。一読して,評者が長年の臨床のなかで患者・家族に学び,積み上げてきた手法や考え方が,さらに総合的なかたちで網羅されていることに,正直,眩暈を覚えたくらいである。ただ我に返って考えてみると,このような考え方を持つSusan H.McDanielが,現在,アメリカ心理学会会長であり,臨床心理学領域で力強いリーダーであることはまことに心強い。
 評者は,慢性疾患,とりわけ治癒の見込めない難病者と家族において,連続する機能喪失に対する不安のなかで,患者の持つ機能を積極的に活かしながら生活全体の質を深めるための幅広い支援を含み込むことが必要であると常に伝えてきた。これはいわゆる主体的QOL向上そのものにつながる。そして幅広い支援には,患者を取り巻く人間関係,とりわけ家族関係を踏まえたアプローチが必要となる。家族は患者自身の健康に関する考え方を決定づけ,患者自身の生活習慣を決定づける存在であり,同時に患者と共に病気に苦しむ存在である。このように患者を取り巻く関係性を踏まえ,“人の認識に関わる領域”が極めて重要な医療的支援対象であると考えてきた。
 本書ではこのような考え方が余すことなく多方面から検討されている。治療の主体である患者および家族と協調して治療が行われるとき,その目標は,「agency 行為者性」と「Communion 親交」であるとしている。前者は個人の自立性と自己主張の重要性,つまり疾患および医療システムに対して「自分が選択する」という対処が重要であるとし,後者は愛情とつながりの重要性,すなわちケア提供者に愛され,支援されているという感覚の重要性が指摘されている。著者たちは,「メディカル・ファミリーセラピーの最も重要な仕事の一つは,家族を一つにまとめ,患者が実行可能な最大の自律性と行為性を守った上で,疾患に取り組ませること」「たとえ患者の決定が治療とは協調しなくとも,患者の自律性を最優先事項として保持すること」と述べ,人が苦難に取り組む方法を示している。本書の特徴は何といっても論点の明確さであり,医療政策・財政の構造転換をも視野に入れた統合的な臨床の視座が示されている。いかなる医療の領域,職種にも有用な一冊であると考え,推薦する。