『メディカルファミリーセラピー―患者・家族・医療チームをつなぐ統合的ケア』

スーザン・H・マクダニエルほか著/渡辺俊之監訳
A5判/450p/定価(6,800円+税)/2016年9月刊

評者 林 直樹(帝京大学医学部附属病院メンタルヘルス科)

 メディカルファミリーセラピーとは,新しく創設された医療の一領域であり,家族・介護者・サポーターをも視野に入れて患者の統合的ケアを目指す医療サービスである。本書は,それを米国の医療に根付かせ,発展させてきた人々によって著わされた教科書である。この領域の教科書はすでに1992年に刊行されているのだが,本書では,その後の発展によって大幅に拡充され洗練されたということで,第2版と銘打たれていないということである。
 この治療は,家族療法を源流とするものであるが,そこには,ずっと広い範囲の視点が組み込まれている。これは,他の医療専門家との協力を前提としているゆえ,急速に変容しつつある現代の医療において重要な役割を果たすことができるとされる。すなわち,現在の医療では,多種の医療専門家同士の協力が重要なポイントになっているのに,それらの活動がばらばらに行われている断片化が問題とされているからである。メディカルファミリーセラピーは,医療を全体的なものとするため,重要な役割を担うと考えられている。さらに,医療経済的見地からも,それは,医療の効率化に貢献し,医療費増大の抑制効果を発揮することが期待されている。
 メディカルファミリーセラピーは,特定の理論や治療モデルでなく,メタフレームワークである。そこでは,システム論的治療や認知行動療法といった治療モデルを方法として自由に使うことができる。そこではまた,患者と家族の「行為者性(agency)」と「親交(communion)」を高めることが基本原則であるとされる。行為者性とは,疾患および医療システムへの対処において自分自身の選択が活かされることであり,親交とは,情緒的絆もしくはケアされ愛され支援されているという感覚のことである。評者は,この原則の単純さに驚きを禁じ得ないのであるが,そのような単純さこそ基本原則と呼ぶにふさわしいものと納得しうる。この原則(両者のバランスを取ること)は,家族療法でも人間の幸せを促進するものだと主張されているという。
 セラピストと患者,家族を結びつけるのは,病いの物語である。病いの体験は,メディカルファミリーセラピーにおいてそれぞれの家族の歴史やライフサイクルの中に位置づけられる。これは,サービスの対象となる患者,家族に留まらない。セラピスト自身も病気になること,病気の家族を抱えることを避けられないからである。セラピストは,自身もそのような存在として,自分たちは医療に受け入れてもらえないという患者・家族の思いを十全に受け入れ,その否定的感情をノーマライズし,自分たちらしさを強めることができるのである。本書では,このアプローチによって身体化障害,慢性疾患のカップルへの影響,ゲノム医療,終末期ケアなど近年注目されている複雑な問題に効果的に対応できると記述されているが,それが可能になっているのは,このような治療スタンスによるものと感じられる。 本書では,先述の諸理解の他にも,新しい視点からのダイナミックな理解が次々と提示されている。それは,セラピストの他の部門,業種,職種との(最小限の協働から完全な統合診療体制における緊密な協働までの)協働レベルの記述,医療施設の壁を超えて地域社会の健康増進プロジェクトにも広がる方向性などである。本書のページの間には,いくつものパノラマ画像が仕込まれているかのようである。
 この治療では,医療専門家のさまざまな役割を考慮して,新しくチームを作ることが基本的作業となる。本書では,その過程におけるさまざまな工夫が記述されている。新しい治療法が従来の他の医療専門家が固めている場に参入するのには,そこに努力が必要なのが当然であるが,中でも評者は,ウォームハンドオフ(サービスの手渡し)という紹介方法に感心した。それは,他の専門家がファミリーセラピストの面接室に直接,患者・家族と一緒に訪問して紹介するという方法である。このように紹介されるなら,医療チームの協力関係と,患者・家族のセラピストへの信頼とが同時に強められることは必定であろう。
 旧来の医療のイメージに囚われている評者は,本書によって多くの蒙を啓かれる思いをした。可能性に満ちた領野を全体的に記述している本書を,多くの人にお薦めしたい。

原書:McDaniel SH, Doherty WJ, Hepworth J :Medical Family Therapy and Integrated Care, 2nd Ed