『増補 不登校の児童・思春期精神医学』

齊藤万比古著
A5判/292p/定価(3,500円+税)/2016年11月刊

評者 早川 洋(こどもの心のケアハウス嵐山学園)

 齊藤万比古は日本の児童精神医学の泰斗の一人であるが,本書は齊藤が1987年から2016年の30年間に記した論文を集めた論文集の増補版である。2006年に発刊された前著は,私もレジデント時代に教科書として必死に読んだものである。今回増補版が出版され,昔を思い出しながら読み返してみた。
 まず巻末の「初出一覧」を見てみると,各章の発刊時期がわかる。これを見ると本論文集で最も古いものは「第3部 不登校の治療論(1987-1991)」であり,次いで「第5部 不登校の周辺領域(1991-2001)」「第2部 不登校の諸側面(1993-2003)」「第4部 不登校の長期経過(1999-2000)」「第1部 不登校の現在(2003-2004)」と続き,最後が思春期について書かれた「第6 部 不登校・ひきこもりとその治療(2005-2016)」となっている。つまり,当初は「不登校に関する具体的な事象への言及」だったのが,次第に「不登校の総論や思春期全般について教育関係者に語りかけるような内容」になっている。これは,不登校支援を医療が主導していた時代から,次第に教育の場が中心になっていった時代の流れを反映しているように思えた。ちなみに,第3部が書かれた1987−1991年は日本ではバブル景気の時代であり,日本全体が浮かれていたバブルの時代に真摯に不登校と向き合い豊かな臨床と思索を積み重ねていたことは齊藤の臨床家としての姿勢を象徴しているように思えた。私も一人の臨床家として,臨床と真摯に向き合う姿勢を学ばなければと思った。
 全体の中で私が一番好きなのは,初期に書かれた第3部の「第9章 登校拒否の下位分類と精神療法」「第10章 入院治療における登校拒否の集団精神療法」「第11章 登校拒否の入院治療」の3章である。中でも第10章は,入院してきた子どもたちが仲間集団と出会い回復していく躍動感が見事に表現されていて,私自身,治療に行き詰まった際に何度も繰り返し読んだ章である。また本書は特に教育関係者にお勧めの書であるが,不登校について学びたい方はまず総論である第1部と不登校の各論と言える第2部を読むことをお勧めしたい。特に,不登校の子どもたちの心理がていねいに語られている「第5章 不登校と心の発達」「第6章 思春期心性と不登校」をじっくり読むと,不登校に対する見方は大きく変わると思う。また,思春期一般の子どもたちについて知りたい方は,第5部,第6部がお勧めである。中でも「第17章 思春期の仲間集団体験における『いじめ』」「第18章 中学生の心のケア」は,思春期の子どもたちをどのように捉えたらよいのかがバランスよく,かつ具体的に示されており,中学生・高校生への支援で迷った時に道を開いてくれる灯火になると思う。