『催眠をはじめるときに知っておきたかった101のこと』

ダブニー・ユーウィン著/福井義一訳
四六判/240p/定価(2,600円+税)/2016年11月刊

評者 原田誠一(原田メンタルクリニック・東京認知行動療法研究所)

 啓発的で魅力溢れる「臨床催眠学・入門書」の登場である。訳者の福井義一先生が「催眠臨床にまつわるヒントが満載である」と断言し,大谷 彰先生が“推薦の辞”で「催眠の初学者,熟練者を問わず本書を薦める」と太鼓判を押しておられるのも納得のいくところだ。
 著者は「そもそも,何故催眠が必要か?」という根源的な事柄に関して,次のように説明を加えてゆく。
 「自然の第一法則は自己保存です。爆発事故やレイプ,肩の脱臼,赤ちゃんが頭をぶつけたなどがあると,患者さんのこころは恐怖と生存に目を向けます。そして催眠様の状態が生まれます。……潜在意識は,つねに自己保存の体勢をとれるよう,自動的かつ反射的かつ直観的に機能します。症状はほとんどの場合,安全を確保するための非合理的な試みです。」(183,208 頁)
 「悲観的な解釈の法則:文章が楽観的にも悲観的にも解釈しうる場合,恐れている人は悲観的に解釈するでしょう。……患者さんの多くは,自分の健康に不安がある状態で来談されますので,どんな不正確な陳述に対しても悲観的に解釈しやすくなっています。」(143 〜 144 頁)
 「主要効果の法則:意志(左脳)と想像力(右脳)が一致しないときは,例外なく決まって想像力が勝ちます。私が治療するほとんどすべての恐怖症でこのことが見出されます。」(140 頁)
 「不安に駆られている生活からは,安全の感覚が失われてしまっています。……『私があなたを守りますから,そんな感覚を少し棚上げして,安全でいられますよ』とトランスのなかで言われたら,不安な人はどれほど安心することでしょう。こうしてラポールは築かれるのです。」(46 〜 47 頁)
 以上の記載は,臨床実務家である評者にとってすんなり納得のいくところだ。次に著者が催眠の本質についてどのように論じているか,いくつかピックアップしてみよう。
 「私にとっては,催眠誘導の技術すべてが左脳の意識的な論理を遮断して,空想にふけるようシフトするのを助けるもののように思えます。目標は,意識的な論理から解離された状態になること,注意集中を伴う『変性意識状態』となることです。そのなかで被誘導者は批判的な検証が減少して,暗示に対してよりオープンになります。……トランス下で患者さんの左脳機能が抑制されると,催眠者の声が,右脳に対する左脳の言語入力の代役になることを理論化しました。」(87,88,133 頁)
 「催眠では,癒やすのは暗示ですが,それは正しい暗示でなくてはなりません。……すべての暗示は自己暗示であり,被験者は新しい考えを受け入れる(自己暗示する)か却下するかという選択肢を依然として有しているのです。だからこそ,観念運動でワークするときに,『〇〇しても構いませんか?』と尋ねることが賢明なのです。」(200,142 頁)
 それではこうした催眠の方法論が,臨床現場でどのような表現型をとるか。ここでは著者がパイオニア的存在となってきた,「火傷」における催眠を用いた対応の一端を引く。
 「ほとんどすべての炎症性の痛みの症候群は,催眠によるストレス解放や涼しく気持ちよくなるという直接暗示によって改善することができます。これは特に火傷においては有効です。」(79 頁)
 「実際に火傷の患者さんに対して,……私が救急救命室に着くまでに,鎮痛剤が効果を発揮しており,患部が冷やされていれば,私が言うことは,『関わっている領域のすべてがどのくらい涼しく快適になっているかに気づいてください。あなたがそのことに気づくと,この指(人差し指に触れます)が上がって知らせます』だけです。そのシグナルが得られたら,『いいですよ。そこが癒えるまで続けてください』と言います。」(187 頁)
 このように著者の臨床の英知と技が次々に披露されてゆくのだが,その中にさりげなく仰天の一言が散りばめられている。例えば,次のような一節。
 「私は喫煙者を3 回で治療します。」(64 頁)
 「ぜんそくやじんましん,自己免疫疾患のほとんどは,危険な副作用もなく,コルチゾンに対して反応するのとだいたい同じくらい催眠にも反応します。」(209 頁)
 当然のことながら著者の語りの内容は,催眠に留まらない精神療法一般で有効な臨床の知を含んでいる。ここでは,次の箇所を引用しよう。
 「がんばる……この言葉は失敗をほのめかします。この言葉を使うのは,起こってほしくないことがあるときだけです。……症状を処方しましょう。『がんばってチックをやりつづけてみてください』。これは『がんばる』という言葉の恩恵を受けています。」(33,104 頁)
 本書は催眠の本質と実際,その魅力と臨床力,そして今後更に発揮されるであろう潜在パワーも知らしめてくれる快著である。評者のような催眠入門者にとって,『催眠を始めるきっかけになった101 のこと』となりそうな強力無比の誘惑の書だ。広く味読を勧めさせていただく。

原書:Ewin D : 101 Things I Wish I’d Known When I Started Using Hypnosis