『アディクションのメカニズム』

A・C・モス,K・R・ダイヤー著/橋本 望訳
A5判/200p/定価(2,800円+税)/2017年1月刊

評者 伊藤絵美(洗足ストレスコーピング・サポートオフィス)

 今,臨床心理学でアディクションが熱い!……と思っているのは私だけでないことは,昨年刊行の『臨床心理学』増刊第8号「やさしいみんなのアディクション」でこの業界のドン(!)である松本俊彦先生が「心理士よ,アディクション臨床に来たれ!」と熱く呼びかけてくれた通りである。私自身も5年前に,アディクション臨床(覚せい剤依存者への支援)を始め,その面白さ,奥深さ,ハチャメチャさ加減に目覚めているところである。
 アディクション臨床の何がそれほど面白いのか。一言でいえば,それは「人間の面白さ」に触れられるから,である。もう少し具体的に言えば,人間の心や体や行動がいかに矛盾に満ちており,予測不能で,だからこそどんなに絶望的でも生きていさえすれば誰しも未来に向けて開かれているということが,このうえなく生々しいレベルで実感できるからである。その生々しさは同誌の松本先生と田代まさしさんの対談を読めばよくわかる。
 さて,それでは同誌でアディクション臨床の熱さに触れた心理士は,次にどうするべきか。私はここで本書を通じてアディクションの「メカニズム」そのものをクールに学ぶことを提案したい。専門職としてアディクションに関わるのであれば,「面白い!」と熱く煮えたぎるだけでなく,必要な知識をじっくりと仕入れ,それを臨床実践の下支えにしなければならないからである。
 本書はアディクションの科学的メカニズムを,生物−心理−社会的視点から個別的に紹介し,最終章においてそれらを統合して,アディクションの統合モデルを示した包括的な教科書である。本書のユニークな点は,これまでややもすれば行動的視点からのみ語られがちだったアディクションの心理学を,認知心理学を用いて拡充していることである。アディクションの病態は実に複雑かつ多様である。当事者の症状や状態を,条件づけ理論によって理解できる場合もあれば,本書で紹介されている無意識の認知的プロセス(システム1)と意識的な認知的プロセス(システム2)に関連づけたほうが理解しやすくなる場合がある,というのは非常に納得がいく。特に「わかっちゃいるけどやめられない」というアディクションに特有の悪循環を「なぜわかっているのにやめられないのか」という視点から理解したり,「やめられないものをそれでもなお,どのようにしてやめていくのか」という話し合いをしたりする際,認知的プロセスを入れ込むほうが当事者は納得しやすいはずだからである。
 この統合モデルは,複雑なアディクションのあり様を一枚のマップとして眺めることを可能にする。このモデルを参照することで,援助者は当事者の状態のみならず,自分がこのモデルのどの部分に介入しているのかが,大きな視点から理解できる。その視点は多職種連携において不可欠である。そういうわけで心理士の皆さんには,ホットな心で上述の雑誌を右手に持ちつつ,クールな頭で本書を左手に携え,アディクション臨床の現場に参入してもらいたい。