本書は『Experiencing Hypnosis: Therapeutic Approaches to Altered States』(Irvington Publishers 1981)の全訳です。そして『催眠の現実Hypnotic Realities』(Erickson, Rossi & Rossi, 1976)、Hypnotherapy: An Exploratory Casebook (Erickson, Rossi, 1979)の続編で、この本でシリーズが完結しています。

 エリクソンは一九八〇年三月に亡くなっていますので、死後一年して本書は出版されました。ロッシは『The February man』(Erickson, Rossi, 1989)の序文の中で、エリクソンの死後呆然としてしまって何も手につかなかったと書いています。そのような混乱の中で、ロッシがエリクソンから催眠を教わるという本シリーズが完結しました。このシリーズは三冊で出版されていますが、第一巻『催眠の現実』三四八ページ、第二巻『催眠療法』は特に大著で五〇七ページ、そして本書でも二九〇ページあります。日本語にするとこれ以上のページになります。例えば二八八ページの『The February man』は『ミルトン・エリクソンの二月の男』として四二六ページで出版されました。とすると、特に第二巻はどのように出版するか、とても困難な選択をすることになることはすぐにわかります。訳者はエリクソンの翻訳をしてきましたが、心理学の催眠分野でのエリクソンの販売冊数から考えて、このシリーズ全冊を出版することはかなり困難だろうと考えていました。しかし、このように金剛出版のご努力によって、本シリーズが日本語として出版され、しかもシリーズが完結することは訳者にとって感無量の出来事です。
 エリクソンの本は、『アンコモンセラピー』で一躍有名になりましたが、「エリクソン全集」を見ても、四冊のうち一冊、また「レクチャー」シリーズも四冊のうち一冊しか、日本語で出版されていません。これには、エリクソンの本の訳のしにくさとともに、販路の狭さも関係していると思われます。

 さて本書に戻りますと、セクションTには「オーシャン・モナークでの講演」(一九五七年一月録音)でエリクソンが行った大きなパラダイムシフトが説明されています。この講演は、催眠誘導と催眠療法の重要な力学を説明していましたが、最後の部分で、間接暗示を用いてグループ催眠のデモンストレーションをしています。「催眠療法においては、世間で言われるような催眠術師の「力」ではなく、患者のポテンシャルと気質が差異の大部分を占めています。セラピストは患者に命令しません。むしろ、『それは常に、考えに応答する機会を彼ら[患者]に提供するという問題です』と、エリクソンは言っています」とここで説明されています。
 セクションUとセクションVでは、トランス誘導と催眠療法に対するエリクソンの二つの基本的アプローチであるカタレプシーと観念運動シグナリングに焦点を当てています。セクションUでは歴史的にカタレプシーを検討し、メスメルの手の動きをエスデイルが外科治療で使ったことが説明されています。またブレイド、シャルコー、ベルネームへと進む近代催眠のなかで、ブレイドはメスメルの流体を否定し、単に注意を集中することが必要なだけだと証明しました。そして、カタレプシーを利用したエリクソンの握手誘導について、詳しく説明しています。
 セクションVでは催眠誘導におけるリバースセットが説明されています。一九五八年のこのときの映像は、スタンフォード大学で、アーネスト・ヒルガードとジェイ・ヘイリーによって録画されました。エリクソンがトランスを深めて、リバースセットを確立する手段として、考えること、することの間で、解離を促進する方法が示されています。
 最後のセクションWでは、催眠経験の学習を取り扱い、臨床催眠を使用する専門家をトレーニングし、自分自身のプロセスを経験できるようにしています。そして二つのセッションで、催眠現象を経験することを学ぶ際に、現代的で、合理的で、科学的な訓練をうけた心が直面する問題が実例で説明されています。

 ロッシがエリクソンから催眠を学習するという形で作成された本シリーズ三冊はまさにロッシとともに一歩一歩、エリクソンに近づく道のりを示しています。「私自身は、テクニックを発展させる中で、良い催眠テクニックであると、私が感じるものはどんなものかを理解しました。深いトランスを誘導するためには、三〇ページのいろいろなタイプの暗示が必要でした。それから、三〇ページから、二〇ページへ、一五ページへ、一〇ページへ、五ページへと、私はゆっくり減らして行って、三〇ページ全体でも、一ページだけでも、一つの段落だけでも使うことができるようになりました。しかし、私は、暗示を少しずつ変化させる方法、そしてある暗示を別の暗示に結びつける方法を徹底的に学習しました。その種のことをする場合、患者が示す手本に従った方法で学習します」というような努力をしてエリクソンは、パラダイムシフトしました。その成果をロッシとともに、学習することができることを、ここに読者の皆さんと喜び合い、エリクソンを学習する人が増えることを願っています。第二巻、第三巻(本書)につきましては、第二巻の見直し時間を十分にとり、訳の間違いを極力減らすために、第三巻を先行して発売することになりました。
 最後になりましたが本シリーズの完結にご努力いただきました金剛出版、弓手出版部長には、本当に感謝しております。弓手部長のお力添えがなければ、翻訳することはできませんでした。ここに御礼申し上げます。

二〇一七年 横井勝美