熊谷晋一郎責任編集

『臨床心理学』増刊第10号
当事者研究と専門知

B5判 200頁 定価(本体2,400円+税) 2018年8月刊



ISBN978-4-7724-1641-2

 当事者の日々と世界は「こまったこと」にあふれている。そして、そのたびごとに創意工夫で「こまったこと」に対処していく。「こまったこと」への対処という経験から、人は「当事者になる」。このプロセスにおいて、それぞれの当事者は固有の「知」を獲得していく。一人一人の個人から生み出される知でもあり、仲間と共同制作する知でもあるそれは、当事者(たち)の唯一無二の「経験−アクション−関係」から生まれた実践知として、共有され、継承される。一方、必ずしも当事者とオーバーラップするとは限らない専門家=研究者による専門知は、当事者による実践知との同心円を描かず、また当事者ニーズから乖離しうるだけでなく、時にパターナリスティックな動機によってこれを疎外することさえある。
 では、いかにして「専門知」は当事者による「実践知」へと寄与できるのか――これが本特集を貫くリサーチクエスチョンとなる。このリサーチクエスチョンを解明するべく、「言いっぱなし聞きっぱなしの当事者研究会議」を通じて、これまで交わることの少なかった各分野の当事者が、互いの領域で共有・継承されてきた「実践知」を紹介し合い、それと同時に、残された問いを示しつつ、現時点での回答を専門家にオーダーする。「いっしょにつくる当事者共同研究」では、オーダーを受諾した専門家が、編集会議の問いに答える形で自らの専門知を開示し、それでもなお残る問いを返していく。
 医療・保健・福祉領域における静かなる革命、当事者研究と、各分野の専門知とのコールアンドレスポンスが生み出す、生き延びるための知の再編成の試み。

おもな目次

セクションA−みんなでつくる当事者研究

  • 当事者による当事者のための共同創造(co-production) (東京大学)熊谷晋一郎

セクションB−言いっぱなし聞きっぱなしの当事者研究会議

  • [第1部]あたらしい当事者研究学術会議構想 編集委員
  • [第2部]言いっぱなし聞きっぱなしの当事者研究会議 編集委員

セクションC−いっしょにつくる当事者共同研究

  • 1−イントロダクション
  •  当事者共同研究のための方法論 (東京大学)綾屋紗月・熊谷晋一郎
  • 2−遺産継承
  •  継承すべき系譜@:運動 (DPI日本会議)尾上浩二
  •  [座談会]世代間継承@――身体障害・難病編 白井誠一朗・熊谷晋一郎
  •  継承すべき系譜A:自助グループ (東京学芸大学)野口裕二
  •  [座談会]世代間継承A――自助グループ編
  • 3−スティグマ
  •  多重スティグマ@――統合失調症と恥 (東京大学)石垣琢麿
  •  多重スティグマA――依存症・セクシュアリティ・HIV/AIDS
  •  (大阪市立大学)新ヶ江章友
  •  多重スティグマB――依存症者の子育てとスティグマ 熊谷晋一郎
  •  医療者の内なるスティグマ (ことぶき共同診療所)熊倉陽介
  •  法はスティグマに抵抗する (首都大学東京)木村草太
  • 4−当事者性と専門性/当事者性の専門性
  •  専門家と当事者の境界 (原宿カウンセリングセンター)信田さよ子
  •  ピアワーカーの政治(politics) (大阪府立大学)松田博幸
  •  アカデミズムと当事者ポジション (東京大学)上野千鶴子
  •  再配置されゆく知の生態学 (大阪大学)中村征樹
  • 5−回復――言葉・集団・健康の視点から
  •  ポスト制度化時代の回復言説の貧困化 (四天王寺大学)平井秀幸
  •  言葉と組織と回復 (リカバリー/それいゆ)大嶋栄子
  •  「ゆるゆる組織」のエビデンス――高信頼性組織(HRO)研究の視点から(明治大学)中西 晶
  •  食生活と回復のメカニズム――精神栄養学の視点から (NCNP)功刀 浩

セクションD−「いっしょにつくる当事者共同研究」のその後

  • 当事者共同研究アフターミーティング 編集委員