北山 修著

増補新装版 悲劇の発生論

A5判/246頁/定価(本体4,000円+税) 2013年10月刊


ISBN978-4-7724-9006-1

 日本神話と昔話を素材とした精神科日常臨床への導入の試みは本書初版(1982年)を嚆矢とする。その後の改訂増補を経て(1988年),このたび新たな論考を追加した増補決定版ともいえる本書が刊行されることになった。
 今回多数の写真入りで追加された「『ともに眺めること』と『浮かんで消える』」では,神話や昔話という「語られた過去」に浮世絵の「描かれた過去」を加えることで,急激な幻滅の「悲劇」に対して,「はかなさ」の体得という成熟要素を対置し,より立体的な描写を行っている。
 現在,精神分析の立場から「日本語臨床」という学問的な流れを主導する著者は,本書の内容をふまえた別の論考では恥の発生論やその取り扱いのための技法論を展開しており,日本人と外国人の違い,「日本の心」といわれるものを日常臨床に積極的に活用している。
 日常臨床を通して臨床家がどのように理論を形成してゆくか,本書は著者自身の自己分析の深まりとともに,土居の「甘え」理論,古沢−小此木の「阿闍世」論以降,日本語臨床研究におけるもっとも重要な文献である。加えて巻末には,妙木浩之氏の詳細な解題を収録した。

おもな目次

    Ⅰ 悲劇の構造

      言葉と禁句
      神話
      昔話における同化と異化
      恥と受けとり方
      とり殺される体験
      浦島の幻滅
      異類との約束
      「母の国」から「この国」へ

    Ⅱ 傷つきやすい母親たち

      同性愛的な強迫観念をもった女性症例
      日本の悲劇的民話における前エディプス的「タブー」
      「ともに眺めること」と「浮かんで消える」

    ■解説 北山修『悲劇の発生論』を読む*妙木浩之