私たちが精神療法を行うことはどのようなことであろうか。私たちの前に問題の解決を求めた人たちがやってくる。それに対して私たちは、ある見立てをして、その問題を同定し,それに対してある解決法を提案する。そこでクライエントが同意をしたならば,問題に見合った治療の器を作り,そして治療者とクライエントとの関係を軸に治療的介入を行い,望ましいクライエントの変化を引き起こすように働きかける。集団精神療法では,このグループという器を作り,そこでの問題に介入し,かつその器を治療的に維持していくかが,治療の実践となる。
 ではなぜこのような視点が必要なのであろうか。漠然と取り組む精神療法では,偶然さにその治療結果が左右される。たまたまその治療が成功するかも知れないし,失敗するかも知れない。しかしただ始めてみたという精神療法では,そこから学ぶことは極めて少ない。しかし見立てとそれに見合った器と介入を意識した治療では,成功したときも失敗したときもその原因を見いだすことが容易となる。そして成功したときには,同じ治療の器と介入を使うことでその治療効果の再現性が高くなる。つまりそれがひとつの治療の技術となる。
 また精神療法の研修はこのような視点から行われる。日本集団精神療法学会研修委員会でもその研修のあり方をめぐってさまざまな議論を積み重ねてきた。そして理論,体験グループ(被治療者としての体験),事例検討が研修の三本の柱として挙げられた。そこではたと困ったのは,日本に集団精神療法を学ぶ上での適当な教科書といえるものがないことである。もちろんそれまでも集団精神療法に関する本はあったし,優れた訳書もあった。しかしこれからの日本の集団精神療法の基本となるべき本が見あたらないというのが私の率直な印象だった。集団精神療法の初心者,実践家,そしてまた研究者が座右の書として使えるようなものである。それには2つの種類の集団精神療法に関する本が必要であると考えていた。一つは実践の手引き書というべきもので,集団精神療法の理論と実践の優れた解説書である。これは近藤喬一,鈴木純一編『集団精神療法ハンドブック』(金剛出版,1999年)として出版された。もう一つは多様な集団精神療法の技法,理論を網羅的に定義したものである。いわば臨床実践の足場の確認とも地図ともなるグロッサリーである。その役割を本書『集団精神療法の基礎用語』が担うことになる。
 『集団精神療法の基礎用語』では,力動的な理解を基礎に持つ小集団精神療法,アクションを主体としたサイコドラマ,認知行動療法を基礎に持つSST,治療共同体から発展した大集団精神療法が基本的な枠組みとして取り上げられている。さらに,各種アプローチとそれらすべての基本となる集団力学が述べられている。
 グループをどのように自分の臨床に使っていくか,を考える上でもこれらの大分類は役に立とう。小集団での対人関係そのものに注目する小集団精神療法,集団力動をその基礎にすえてアクションを自己表現の道具として用いていくサイコドラマ,問題解決を習得するSST(問題解決志向グループ)がまず考えられる。この枠組みから入院森田療法は,サイコドラマとSST(問題解決志向グループ)との中間に位置づけられる。大集団精神療法は,以上の3つのものとやや性格を異にしている。その柱が治療共同体であることからわかるように,改革への運動を内包する。「つきあげ」(コンフロンテーション)という言葉が大集団精神療法の特徴の一面を如実に示している。
 自分がどのような対象に,どのような考えに基づいてグループという器を運営し,どのような技法を用いてクライエントの問題解決の取り組もうとしているのかを,自覚する上で本書は有用であろう。またこのことは臨床家個人のみならず,日本集団精神療法学会の成熟に学派の違いと共通点の意識化が欠かせぬものである。本書がそのいわば導き手として役割を果たすことを期待する。

日本集団精神療法学会理事長(日本女子大学・森田療法研究所) 北西憲二