まえがき

 筆者は,これまで精神科クリニックをおもな臨床現場としながら,心の問題を抱えるさまざまな子どもたちと出会ってきた。心の援助者として働くなかで,子どもたちのひとりひとりが,豊かな感性を持ち,それぞれの輝きとたくさんの可能性を秘めていることを実感してきた。かれらのなかには,あからさまには表明しないものの親への感謝の気持ちや尊敬の念を抱いている子どもも多い。そして,子どもを育てる親も,それぞれが子どもへの深い愛情を持ち,子どもとのかかわりについて試行錯誤を重ね,ひたむきに努力を続けている。ほとんどの親が,程度の差こそあれ子どもの健やかな成長を願っているのである。
 しかし,現実には,子どもと親の気持ちが大きくすれ違っていたり,まったく理解し合えない状態になっていて激しく反目している場合がある。ときには,子どもが親とのコミュニケーションを頑なに拒絶し,親も子どもに苦痛を強いるような対応をしていたりする。親子関係もひとつの人間関係なので,いつも円満でいられるわけではなく,時として不調和が生じるのも親子のひとつのありようだと考えられる。しかし,親子の間に相互不信や深い亀裂が生じ,それが長期間続いた場合は,より弱い立場にある子どもが心の問題として症状や問題行動を呈していくことが多い。そして,その問題が親の不安や自責感をいっそう喚起し,子どもにマイナスの影響を及ぼすことになり,さらに子どもの状態が悪化するという悪循環に陥っていく。
 こうした親子関係の不調和を少しでも改善していくためには,子どもの心と親の心のそれぞれを十分に理解し,両者をつないでいくかかわりが重要である。筆者は,心理臨床実践のなかで,子どもと親との間をいかにつないでいくかということについて,長年問題意識を持って取り組んできた。子どもといっても,幼児期から青年期まで幅が広く,それぞれの年代に応じた理解と対応が必要である。さらに,同じ年代の子どもでも,各々が豊かな個性を持っており,ケースに応じた臨機応変な対応や柔軟性が必要である。そして,親も同様に,さまざまなものの考え方やとらえ方をもっており,その親に合った対応がセラピストに求められる。さらに,子どもにとって必ずしも望ましくない存在であった親をセラピー上の協力者に位置付ける,すなわち子どもの味方という存在にするという発想の転換を行いながらケースにかかわることがとても重要であると考えるようになった。
 そして,「同一セラピスト親子並行面接」という技法を効果的にすすめるための工夫をさまざまな試行錯誤を経て検討を続けてきた。私がこれまで,子どもの心の問題を援助してこられたのも,多くの親との出会いがあり,私自身が親たちに励まされ支えられてきたという側面があるからである。
 子どもや親それぞれの切実な思いというものに光を当てて,少しでも多くの人に知ってもらえたらというのが,筆者が本書を執筆するにあたっての一番の願いである。
 本書を通して,読者の皆様が,子どもの心と親の心について理解を深め,子どもと親との間をつなぐことの重要性と難しさを体感していただき,心理臨床を実践していく上でのヒントや糸口になるのであれば筆者にとってこのうえもなく幸いである。

 小俣和義