あとがき

 本書を読んでくださった皆様ありがとうございます。読者の皆さんにとって,少しでも参考になる点があれば,何よりも嬉しく思います。
 本書の原稿を書き終えて,正直ほっとしている気持ちがある一方で,読者の皆様のお役に立てるようなことがどこまで書けていたのだろうかという心配も頭をもたげてきます。また,日ごろの臨床体験から感じたことを,なるべくありのままお伝えしようと自分なりに努力はしたのですが,改めて言葉に置き換えて表現することの難しさを痛感させられています。しかし,執筆する中で,私自身の学生時代からの臨床体験がさまざまなかたちで思い起こされてきました。自分自身を振り返るという意味でも有益だったように思っています。
 私が心理臨床の世界に足を踏み入れたのは,大学3年次から始めたさまざまなボランティアや臨床実習がきっかけでした。大学から大学院時代にかけて,精神科病院や教育相談所での実習を行うなかで人とのかかわりの難しさや大切さをたくさん感じてきました。そして心の問題を抱える子どもたちや小児糖尿病という身体疾患を持つ子どもたちとの集中キャンプ,脳性マヒ児を対象とした動作訓練キャンプにも参加し,多くの子どもたち,そして親御さんたちとも寝食を共にして,心理臨床の幅の広さと難しさにとまどいとを感じながらも,人とかかわっていくことの奥深さを体験し,次第に心理臨床の世界に引き寄せられていくようになっていきました。
 大学院修了後に,都内精神科クリニックの開設時に,常勤の心理職として働かせていただくこととなりました。最初は,自分が何をして良いのか不安で過ごす毎日でしたが,年を追うごとに他職種を含めたスタッフが増え,職場での円滑な風通しの良い人間関係を築いていくなかで徐々に私の安心感も増し,職場内での役割分担が明確になりました。院長の穏やかで誠実なお人柄の下,スタッフ同士が来談者に最良のケアーを提供することを目的に非常に円滑な連携を保ててこられたことが,援助をする場として有効に機能することにつながったのだと思います。本書の根底にある「つなぐ姿勢」への重要視はこうした土壌が背景にあって徐々に培われていったものだと実感しています。
 これまで,子どもと親に会う際には,他の臨床心理士(あるいは医師)と筆者で親担当面接者と子ども担当面接者に分担して行うケースも含めて,さまざまな試行錯誤を重ねてきました。私は暗中模索するなかで,ケースによっては担当者を分担せずに,同一セラピスト親子並行面接という形態でも,「導入時の枠付けをうまく行えば効果的にすすめられるのではないか」と考えるようになり,本書に述べたようなさまざまな技法上の工夫について,研究を行ってきました。日々の臨床現場での研鑚のほかに,研究会や学会での発表を通じて,時間をかけて検討を重ね,一人のセラピストがかかわる場合でも子どもと親をつなぐ姿勢が重要であるという考えを強くし,かなりの年月を掛けてようやく私のなかで基盤のようなものができたという次第です。クライエントであるお子さんやその親御さんをはじめとする多くの方たちとの出会いやつながりが,私にさまざまな示唆を与えてくれたことに改めて感謝し申し上げます。
 2002年9月の第21回日本心理臨床学会(名古屋国際会議場)で,私は親子面接に関連する3本の同学会誌への掲載論文により「奨励賞」という身に余る賞を戴きました。その翌年の2003年には,「子どもと親との間をつなぐ心理臨床」という演題で記念講演をさせて戴くことになりました。フロアーは座りきれないほどに一杯になっていて,親子というテーマに強く関心を持つ心理臨床家がたくさんいることを実感致しました。また,自分なりの考えが話せるという喜びと同時に強いプレッシャーを感じ,講演前は緊張のあまりからだが震えていたことを今でも鮮明に思い出します。結局,自分がこれまでしてきたことをありのまま正直に紹介していくという原点に立ち戻ってお話をさせて戴き,何とか講演を終えることができました。
……(後略)

2006年7月  小俣和義