江口重幸・斎藤清二・野村直樹編

ナラティヴと医療 POD版

四六判 270頁 定価(本体3,500円+税) 2018年7月刊



ISBN978-4-7724-9037-5

 医療は大きく変動している。遺伝医学や医工学,薬理学が発展し,経済性を重視し細分化された効率的でシステマティックな医療が広がりを見せる。そうした現実のなかで,患者と治療者の関係性を主体とした医療を模索する手がかりになるのが「ナラティヴ」である。本書は,人の生活と病い,そして医療者のあり方をめぐって展開を見せているナラティヴの考え方に焦点を当て,ナラティヴ・ベイスト・メディスンや社会構成主義といった立場から,心身医学,内科学,看護学,終末医療,倫理,医療訴訟,医学教育,遺伝相談などの実践家・研究者から,医療の姿を多声的に導き出したものである。
 専門職の世界と日常生活を同時に語る理論はこれまで少なかった。その両方にともに関わることができる言葉がナラティヴである。しかし,答えを断定せず多様な価値観を許容するナラティヴは,時として医療者には奇異なものに映る。本書では,ナラティヴ理論の単なる紹介だけでなく,多くの実践例を具体的に述べているので,その多様性のなかに読者一人ひとりの新しい医療のあり方が見えてくることだろう。
 ナラティヴを実践でも学術レベルでも牽引してきた編者・執筆陣によって生まれた本書は,人間を主体にした幸福な医療を希望するものの道標であり,医療にかかわるすべてのものにとって必読のものである。

おもな目次

第1部 ナラティヴの多様性

  • 1 ナラティヴとは何か:野村直樹
  • 2 臨床場面における物語と声――ジャネの「想話機能」を手がかりに:江口重幸
  • 3 ナラティヴの断層について:小田博志
  • 4 医療者と生活者の物語が出会うところ:星野 晋
  • 5 医療倫理の方法としての物語論:宮坂道夫
  • 6 医療事故紛争のナラティヴ:和田仁孝
  • 7 医学教育と語り:藤崎和彦

第2部 医療におけるコミュニケーションとナラティヴ

  • 8 心身医学――移植の語り:岸本寛史
  • 9 民俗セクター医療をめぐるナラティヴ――その社会・文化・歴史的構築:辻内琢也
  • 10 遺伝医療におけるナラティヴ――女性たちの語り:中込さと子
  • 11 幻覚妄想というナラティヴ――関係性における病いと癒し:土岐篤史
  • 12 残された家族が喪に服すということ:吉野淳一
  • 13 精神科看護のための物語――臨床民族誌的思考と記憶:松澤和正
  • 14 ソーシャルワークとナラティヴ――緩和医療の実践から:田村里子
  • 15 地域コミュニティとNBM――病いの語りの倫理的証人になること:古屋 聡
  • 16 心身医療への民族誌アプローチ――病いの語りの倫理的証人になること:鈴木勝己
  • 17 医療におけるナラティヴの展望――その理論と実践の関係:斎藤清二<