はじめに
 思春期臨床の難しさには2つの要因がある。ひとつは,心理生理的・心理社会的に大きな変化が訪れるがゆえの,混乱や不安定さによる思春期固有の難しさである。いまひとつは,思春期の心は時代を反映しやすく,心の病理が社会の変化に伴って,容易に変容することによる難しさである。「思春期臨床においては対応が変化に追いつかない」とよく言われるゆえんである。今,若者たちは,これまでにない混乱や苦しみのさなかにいる。
 本書は,思春期という時代について,また思春期に見られる個々の病理について,最新の研究や報告を踏まえて,現在,どのような視点から,どのように考えられるようになっているかを論じたものである。それとともに,そのような視点から,どのような新たな治療的アプローチがなされるようになっているかを,理解しやすくまとめた画期的な内容になっている。疾患として取り上げられていないのは,転換性のヒステリーと狭義の強迫性障害のみといっても過言ではない(両者は病態も理解の方向性も従来からあまり変化していない)。思春期臨床で出会う重要な疾患・病理についてはほぼ網羅しているといえよう。言い換えれば,思春期臨床を実践する上で知っておくべき内容を,ほぼカバーできたのではないかと自負している。
 思春期の心理・病理の理解の視点も大きく変わりつつある。脳科学・精神薬理学の進歩はすさまじく,両者の視点からも思春期臨床を考える必要が増している。力動的な視点とは異なるアタッチメント理論からも思春期臨床を考える必要性が出てきている。
 各病理について言えば,従来から思春期臨床の中心テーマでありつづけている境界性パーソナリティ障害・摂食障害において,病理の理解やアプローチが大きく変化してきている。また境界性パーソナリティ障害の治療的アプローチはようやく収束しはじめている。また,わが国の思春期臨床の重要な病理である対人恐怖症や不登校・ひきこもりについても,理解の方向性や治療が大きく変わってきている。最近になって注目を浴びてきた思春期のうつ病,発達障害,身体醜形障害,解離性障害も理解が進んできている。統合失調症の臨床も変わりつつある。
 思春期の重要な問題であるさまざまな行動化としての,自傷行為,自殺,性的非行に関しても,多くの報告がなされ対応も改善されてきている。また,認知行動療法・心理教育的アプローチなど,新たな治療的アプローチが思春期臨床に導入され成果を挙げている。
 各章を担当いただいた先生方は,それぞれの領域におけるエキスパートであり,わが国で考えうるもっとも望ましい執筆陣にそろっていただけた,という思いで一杯である。このことを編者として喜んでいる。本書が,わが国の思春期臨床・思春期の現場に携わる方々に大いに役立っていただけることを心から祈念している。
……(後略)

2007年1月 鍋田恭孝