おわりに

鑑定,それはありがたき研鑚の場

 精神鑑定とは―時間と経費を確保されて書く最高水準の診断書である―と定義することもできる。
 診断書は本来真正なもののはずだが,実際はそうでもない。特に精神科では働けるとも働けないとも言えるような状態に対して,要請通りに(あえて直裁に書けば,言いなりに)「自宅療養を要する」とか「復職可能である」とか書かされることもしばしばである。一度や二度なら人助けと思えるが,あまりに漫然と繰り返されると正直いやになることもある。
 翻って鑑定では正真正銘真正な診断書が求められる。余計なことは気にせず,良心に従って真実探求の姿勢で臨めば良い。最大の難関である証人尋問も,温室育ちの医師にとってはむしろ必要な,自分を振り返り高めてくれる研鑽の場と受けとめたい。法廷であいまみえる人々に,右にも左にも前にも後ろにも納得してもらえるような物を提示したい,という見果てぬ夢を描きつつ推敲を重ねるのもまた楽しい作業である。定義しなおせば,精神鑑定とは―時間と経費を確保された最高の修練の場である。なんとありがたい機会であろうか。
 一般市民でさえ裁判員に指名される時代であり,医師にとっても鑑定は他人事ではなくなってしまった。多くの精神科医が積極的にこの分野に取り組んで,知見の集積に力を貸していただけるよう期待したい。

 本書の刊行に御協力いただいた下記の方々に感謝いたします。
 故糸井孝吉恩師のもとに集い研鑚を積んだ記憶を受け継ぎ,現在も福岡司法精神医学懇話会にてこの分野の研究討論を続けている同好の先生方,村田浩様,小坪大作様,古賀幸博様,松野敏行様,藤丸靖明様,吉田一郎様。
 医療観察法鑑定に関する種々の情報提供にご協力いただいている福岡保護観察所の社会復帰調整官の方々,嶺香一郎様,大中ふみ様,中釜大祐様,三島一秀様。
 著者が現在勤務している民間病院の以下の皆様。
 常に良好な鑑定の場を提供していただいている2病棟の橋本修元課長(現看護部長)様,田中幸子課長様,下田淳係長様,福田隆司係長様,並びに2病棟全スタッフ様。
 無理な締め切りを厳守し的確な心理テスト評価を返していただいている心理相談課の本田玲子課長様,長谷川めぐみ様,久門志保子様。
 校正作業に協力いただいた相談支援課の久保田麻理様,河島靖憲様。
 鑑定入院受入れの窓口になって余計な仕事を強いられている相談支援課の岸ノ上陽一課長様。
 最後に,2010年初頭に本書執筆依頼のお手紙を賜り,以後編集作業全般に渡って行き届いたご配慮をいただいた金剛出版編集部中村奈々様に心より感謝申し上げます。