「臨床心理学」創刊に寄せて

(日本臨床心理士資格認定協会会頭)木田 宏

 日本臨床心理士会の会長をしておられる河合隼雄さんはじめ,心理・臨床の各領域で活躍をしておられる方々を編集委員として,本誌が創刊されましたことは,まことに心強く,また喜ばしい限りであります。
 顧みますと,昭和63年(1988)に,財団法人日本臨床心理士資格認定協会が設立され,臨床心理士の資質を向上させようとする資格認定制度が開始されて以来,私は認定協会の責任者という重責を与えられ,業務の充実発展に心掛けて参りました。その十数年の間,最も深く感銘を受けておりますことは,関係学会を広く結集して,この資格認定制度を堅実なものに育て上げようとしてこられた推進者の方々の熱情であります。そこには,社会の各方面でカウンセラーが必要とされるようになるという時代を見る眼,先見性があるとともに,社会の要請に対応出来るように,臨床心理士の資質を高めなければならないとする責任感が窺えました。
 いったん,臨床心理士の資格認定を受けても,絶えず研鑚を続けて必要な単位を習得し,五年ごとに資格認定を更新しなければならないとする現行の制度が,的確に保持されているということは,私の当初の予想を遥かに越えた成果でありました。それは,臨床心理士各位の職務に対する責任感の高さを示すものにほかなりません。
 心の歪みを正し,心の健康を培おうとする臨床心理士の仕事振りを伺いながら,臨床心理士は,他の職業にも増して,何よりも先ず自らの行為に対する倫理の確立を旨としなければならないことを痛感致しました。倫理に悖る行為があれば,その本人個人の問題に止まらず,ようやく,社会の信頼と期待に応えようとする職域全体に対する不信を生む事になります。昨今,臨床心理士に対する期待が各方面に高まっている折から,臨床心理士の倫理の確立,道義の実践は,最も基本的な心構えでなければなりません。
 次にと言っても,二番目と言う意味ではありませんが,臨床心理士は,絶えず事例の研究に努め,社会や人心の推移について,理解を広げなければなりません。臨床心理士が精通していなければならない学問,即ち,臨床心理学は,同じ学問と言っても,いわゆる科学的な論理の学問ではないからであります。分析し,違いや不純物を取り除いて,世界に通ずる筋道を見出すという学問とは異なり,人間一人一人の違いを見分けて,その実像に迫り,その生きる力,癒す力を育てるようにしなければなりません。そのためには,多くの事例に学んで,相手により異なった対応が必要となることをも知らなければなりません。
 世の中の推移とともに,今日,対応する当人の必要は何か,を見分けられるように自らを磨いておかなければなりません。日々の絶えざる研鑚こそ,必須の要件であると考えるのであります。
 その意味において,新しい「臨床心理学」が,従来の学会誌の枠を超えて,社会や環境の変化,事例の動向などを視野に入れた情報を,提供しようとされる意義は,誠に大きいものがあると期待されるのであります。
 本誌が,情報化時代の心理臨床の情報誌として,学会員はもとより,臨床心理士の研鑚に寄与し,江湖の期待に応えられるものとなることを祈ります。