雑誌「臨床心理学」の責任

下山 晴彦(東京大学)

 21世紀をまさに迎えようとするこの時期に,臨床心理学の専門誌が新たに創刊されることになった。臨床心理学に関わる者の一人として喜びにたえないという気持がある一方で,喜んでばかりもいられないという思いもあるのが正直なところである。臨床心理学を取り巻く社会状況は大変厳しい。なぜならば,社会そのものの構造が大きく変動している現在にあって,新しい社会秩序を形成していくうえで,臨床心理学に期待される役割は非常に大きいからである。臨床心理学の発想や技能が至るところで求められている。学校におけるスクールカウンセリングしかり,犯罪被害者の支援活動しかり,高齢者の心理援助やターミナルケアしかりである。
 ところが,日本の臨床心理学は,本質的には,未だに古い発想から抜けきらないでいる。社会からの要請に適切に対応できるだけの体制ができていない。昨今の臨床心理学の人気は,社会からの期待に刺激されて現出した単なるバブルに過ぎないともいえる。したがって,今後の日本の臨床心理学の命運は,古い発想から抜け出て社会に開かれ,社会と協調し,社会の中でリーダーシップをとることができる発想と技能を如何に開発できるかにかかっている。その点で,本誌の意義と責任は,重大であると言わざるを得ない。